GARI 『COLORFUL TALK』
バンド・スタイルを貫きながらも、エレクトロを導入したダンス・ビートで世界を揺らしてきた4人組が3年3か月ぶりとなるニュー・アルバム『COLORFUL TALK』を完成させた。時代ごとのエッジーなサウンドと共振することで進化を遂げてきた彼らの最新モードについて、YOW-ROW(ヴォーカル/プログラミング)が語る。
クロスオーヴァーな感覚に興味を覚えた
――今回、bounceでの取材は初となるんですが、元々バンドはどのような流れで結成されたんですか?
「97 年くらいに獨古(豊:ギター)、藤本(直樹:ベース)、日下部(圭:ドラムス)が学生時代に立ち上げたバンドが母体になっているんですけど、そこにたまたま僕が合流して現在に至るという感じなんです。僕はそれまでは一人で打ち込みをやっていたり、バンドをやってはやめてって感じだったんですけど、そのなかで3人とはやりたいことがいっしょでバンドをやることになったんです」
――97年というと、プロディジーの『The Fat Of The Land』が世界を制していわゆるデジタル・ロックといわれたダンスとロックが融合したような音楽が一気に爆発していった時代ですよね。メジャー・デビュー盤『e・go・is・tick』で展開されているGARIのサウンドもデジタルな質感を打ち出したミクスチャー・サウンドだったわけですが、やはりそこらへんの音楽の影響は大きいんでしょうか?
「そうですね。元々はレッチリとかのミクスチャー・ロックが好きだったんですけど、僕らもそこから当時勢いに乗っていたプロディジーに触発されてダンスやクロスオーヴァーのムーヴメントに流れていったという感じですね」
――ちなみに当時影響を受けたアルバムとかってありますか?
「う~ん、多分、いま思えば僕の音楽の分岐点って映画〈Spawn〉のサウンドトラック(『Spawn: The Album』)だったんですよ」
――あ~、はいはいはい! 当時のヘヴィー系ロック勢とDJやプロデューサーたちがコラボレーションしたアルバムですよね? (注:オービタルとメタリカのカーク・ハメット、バットホール・サーファーズとモービー、プロディジーとトム・モレロ、スレイヤーとアタリ・ティーンエイジ・ライオット、コーンとダスト・ブラザーズなど、あっと驚くコラボが実現したデジタル・ロック/ビッグ・ビートの時代を象徴するようなサントラ盤)
「ええ。あのへんのクロスオーヴァーな感覚、生演奏するバンドとDJたちがいっしょにやったらどうなるか、ロックがドラムンベースと闘ったらどうなるかっていう実験的な作品があのアルバムだったんですよね。そこにすごい興味を覚えてましたね。それで僕たちは、アメリカから発生した肉体的なミクスチャー、その一方でマンチェスターから流れてきたロックとエレクトロニック・ミュージックの融合。そのどちらにも振れているバンドでいたかったんですよね」
時代時代のエッジーな音に目配せしたい
――とは言え、3年前にリリースした『Masked』までは、バランス的にはそれこそコーン的なハードなギター・リフでゴリゴリ押していくラウド系のサウンドに重心が置かれていましたよね。
「そうですね。そっちのテイストが強いですね」
――それが3年ぶりにリリースされる今作『Colorful Talk』では大々的にエレクトロ・サウンドを採り入れてますよね。この大きな変化は何がきっかけで生まれたんでしょうか?
「前作から3年あるんですけど。その間ってバンドとしても過渡期というかすごく悩んだ時期だったんですよ。ミクスチャー・シーン自体の雰囲気にもなんとなくどうなんだろうって感じがあったし。それに、実は僕らは自分たちで〈ミクスチャー・バンド〉って発信したことはなくて、時代時代のエッジーな音に目配せしたいというのが本来の目的としてあったんです。それで、いまのままミクスチャー・スタイルを続けていくのかどうか悩んだと。それが前作から今作までの3年間だったんです」
――本来ミクスチャーというスタイルがエッジーだから採り入れていたのに、いつしかそれが自分たちを縛ってしまっていたと。
「そうですね。かつてのミクスチャー・ロックは最先端の新しい音楽だったから自分たちにも引っかかるものがあったんです。でも、『Masked』まででミクスチャーという手法はやり切った感もあるし、ミクスチャー自体も最初に僕らが感じていた〈いろんなものが混ざっているおもしろさ〉というよりは、いつの間にか様式美が出来上がっている状態になっていたんです」
――確かにヘヴィーなギターとスクリームするヴォーカル、ターンテーブルという感じでだいぶ音楽的なフォーマットも定まっていましたよね。
「ええ。で、そんななか、盛り上がりつつあったエレクトロにすごく興味を覚えたんです」
――GARIはヨーロッパでの活動も精力的に行っているし、フランスのレーベルから音源も出していますよね? だから向こうでのエレクトロの盛り上がりに触発された部分もあったんじゃないですか?
「そうですね。シーンの熱い感じもありましたし、いわゆるマスの音楽、TVで流れるような音楽もエレクトロの要素が入り込んでいて、かなり一般に浸透している感じでしたね。それと比べると日本ではまだまだだし、逆にもっともっと変わっていけるんだろうなって思うし、より大きいフィールドに浸透していかないとシーンも変わっていかないかなって思います。いまはJ-Popもエレクトロ風味の作品が増えてきているので、ヴェテランのアーティストもそれを察知すればもっとおもしろくなるんじゃないですかね」
――日本ではなかなかムーヴメントって起きにくいですからね。
「とは言え、元々GARIではエレクトロニックな要素もありましたし、エレクトロを採り入れても、グルーヴを感じられる音楽をやるという根本的なバンドの〈イズム〉は変わってないんですけどね」
エキスパートというよりはミーハー
――あの、失礼なんですが、時流に流されたくないってバンドは多いと思うんですけど、時代時代のエッジーなものを採り入れるって公言するバンドってあんまりないですよね(笑)。
「確かにミーハーな感じがしちゃいますよね(笑)。でも、〈これしかできない〉というのがポリシーというバンドもいますけど、僕らはそういうふうにはなりたくない。カメレオンみたいに色を変えていきたいんですよ。日本ではそういうバンドがいないので、GARIがそれになればいいなと思いますね」
――バンドのそういう姿勢が形成されたのには何か理由でもあるんですか?
「そんなに難しい話ではないんですけどね。やってる側が飽きちゃうのと、時代が流れて若いバンドもどんどん出てくるなかで、そこに喰らいついていきたい気持ちが強いんですよ。〈オッサンってダサイよね〉って言われたくないし、それこそプライマル・スクリームみたいにいつも時代を切り取れるアーティストでありたいっていう気持ちが強い。だって〈まだハード・ロックなんてやってるんだ?〉って思われたくないでしょ? そうなると、そもそもバンドの音楽性ってなんなんだろうって考えちゃうわけですよ。で、僕はポピュラー・ミュージックとしての本筋に絡んでいければいいと思うし、広がっていければいいと思うんです」
――そこで自分たちの味が出てくるわけですね。ではアルバム『COLORFUL TALK』を制作するうえで意識していた点はありますか?
「エレクトロを採り入れるって言っても、いわゆる2人のプロデューサーがターンテーブルやPCの前で行う音ではなくて、バンドがやったらどういうアプローチになるのかなって見え方がするようにしていますね。トラックメイカーが作るサウンドと同じものでは意味がないですから」
――GARIのようにオルタナティヴ・ロック、ミクスチャーを通過した地点からエレクトロを導入していくサウンドと言えば、いわゆるジャスティスやダフト・パンクなどのエレクトロ・アクトよりはペンデュラムやケミスツみたいなバンドに共感されるんじゃないですか?
「そうですね。あくまでバンド・スタイルやギターが乗っかった時にどうなるかってアプローチをしているバンドのほうが参考にはなりますね。4つ打ちでまとめたほうがDJもかけやすいかもしれないんですけど、それだとやっぱり飽きちゃうんで。ドラムンベースもテクノもあってっていうふうに格好良い音楽を全部やりたい。僕たちは欲張りなんですよね。エキスパートってよりはどちらかというとミーハーなんだと思います。そもそもミクスチャーを始めたっていうのも、何でもありというところに惹かれてですから。音楽性をひとつに絞れなかった時期、あの時の〈何でも許される〉っていう部分に大きな可能性を感じたんですよね」
―― いわゆるエレクトロ系のビートはボトムが非常にヘヴィーな4つ打ちが多いですが、抜けの良さを重視したブレイクビーツ系の“STARCADE”やゴーゴー系の“Good-bye PUNXX”、初期のBOOM BOOM SATELLITESを彷彿とさせるつんのめったビートが印象的な“NEWWAVE×NEWDAYS”とかなりビートは多彩なものになっていますよね。
「さっきも言ったトラックメイカーと同じような感じにはしないことと、ポップさをすごく意識することによっていろんなものを削ぎ落としていったこと、エレクトロというキーワードを使いつつ、いろんなパターンで作った曲が収録されたコンピレーション盤のように感じられるように意識して作っていましたね」
――コンピ的な作品を作っていくというのは何かしらの効果を狙ってのものだったんでしょうか?
「そこまではないですね。でも、エレクトロみたいなサウンドがまだ市民権を得ていないかもしれないし、興味のない人にとっては難しいジャンルと思われているかもしれないなかで、ポピュラリティーを持ったサウンドを作りたいと考えている以上、〈何だかわからないけど、この世界に入ってみたい〉というものを作るのはあたりまえの発想なんですよ。そのためのヴァリエーションなのかもしれないですね」
タイトルが示す開放感とキャッチーさ
――冒頭の“OVER THE SUNRISE”からそうなんですが、ギターよりもシンセ・リフを中心に組み立てていったことと、上昇するようなコード展開を強調したことでかなり昂揚感溢れる作品になっていますよね。
「これまでやっていたラウド・ロックやミクスチャー的なアプローチだとシリアスなほうが曲との相性もいいので、ダークなコードを使いがちだったんですよね。だから、それの裏返しというのもあるのかな。アルバムのタイトルもそうなんですけど、色が明るくて、カラフルなものにしたかった。それは意識していましたね。不快感や〈何これ?〉っていうモヤモヤ感よりは、もっとスッキリした感じを与えていくような方向に向かっていきましたね」
――あと、これは的を外した指摘だったら申し訳ないんですけど、“Nu=DANCE”をはじめ、楽曲の随所に80年代の日本のソウル歌謡的なキャッチーなフックを入れていますよね? それこそラッツ&スターばりの。
「ああ、それは合ってると思いますよ。今回の作品を作る時には現在のエレクトロも聴いていたけど、同時に70年代や仰ってたようなソウルやファンクみたいな泥臭いものも聴いていたんです。あの時代の一度聴いたら忘れられないフレーズは採り入れていきたいってところがあったし、いま振り返ると、実際そういうふうに作ってました。あの時代になんとなく聴いていた曲って、ディスコ・ソングでも何でも、曲名を知らなくても曲自体は知ってる、っていう印象が強かった。それってまさに普遍的ってことだと思うんですよね。引っかかり具合やわかりやすさ。言葉を単に羅列しただけでもわかりやすく聴こえてしまうようなフレーズのキャッチーさは意識していたのかもしれないですね」
――“Battle?”でフィーチャーしているURALiさんについて教えて下さいますか?
「普段はヒップホップR&B的なものをやってるアーティストなんですけど、ここ最近のヒップホップやR&Bのアーティストがエレクトロに接近していることもあって、彼女もエレクトロ系のサウンドを模索していたみたいなんです。で、僕らもトラックメイカー以外のアーティストとのコラボを今回のアルバムで考えていたなかで知り合って、〈一回、自分たちの曲でやってみない?〉という感じで誘ってみたんですよね」
―― アルバムは昂揚感と解放感に満ちたとてもポジティヴな作品になりました。サビのフックやフューチャリスティックなカラーなど、日本のバンドらしい独自性もあって、とてもオープンな作品になったと思います。これまで逆輸入バンド的な扱いが多かった感もありますが、この作品を機に日本でのリスナーも増えていくんじゃないでしょうか?
「海外での評価っていうのも、遠回しに〈日本じゃ売れてないですから〉って思われてるようで悔しいじゃないですか(苦笑)。僕らは〈日本人にはわからないから海外に出る〉って気持ちでやってるわけではないですし、むしろ日本で売りたいって気持ちはすごく強いんですよね。『COLORFUL TALK』はその入り口になる作品にしたいと思って作ったし、その思いが開放感や作品全体のキャッチーさに繋がっていると思うんで、ぜひ聴いてみてほしいですね」
――その力はあるアルバムだと思いますよ。
「それに、こんな時代だからこそ、おもしろい音楽に耳を傾けられるんじゃないかなと僕は思ってますから」
――へぇ。おもしろい意見ですね。それはどういうことですか?
「CDが売れなくなったっていうことには、実はいい面もあると思うんですよ。というのも、量産性の高いものより、個性的なアーティストの作品のほうが目立ちやすくなると思うから。100万枚売れる作品が多かった時代よりは、そういう作品が見えやすくなってますよね? 数年前は、3万枚売れたアーティストって全然目立たなかったけど、いまはすごく目立ちますし。おもしろいことをやろうってアーティストにとっては、いい時代なのかなって思います。突出した売れ方をする作品が減れば、フレッシュなものに目がいく可能性がありますから。そうなった時にもリスナーの人に聴いてもらえる、色のある作品を作れるようになりたいですね」