FACT 『In the blink of an eye』
ゲット・アップ・キッズなどを輩出したUS西海岸の老舗レーベル=ヴェイグラントをはじめとする世界デビュー、UKの音楽フェス〈SONISPHERE〉へのヘッドライナー出演、そして日本におけるメジャー移籍など、2009年は活動10周年に相応しい躍進を見せたFACTが、早くもニュー・アルバム『In the blink of an eye』を完成させた。バンドの存続も危ぶまれたという大事故を経て辿り着いた、かつてないほどにヘヴィー&ラウドなサウンドと〈脱・能面〉の経緯について、5人に話を訊いた。
天国と地獄の1年
――2009年で活動10周年を迎えたFACTですが、振り返るとどんな10年でしたか?
Kazuki(ギター/ヴォーカル)「いま思うと短く感じますけど……その時々を思うと、ものすごく濃い時間を過ごしてきたなって思うんですよね」
Tomohiro(ベース/ヴォーカル)「インパクトのあることしか覚えていられないので、ギュッと濃縮された感じはありますけど、あっという間の10年だったかな」
――そんななかでも2009年は、欧米デビューや日本でのメジャー移籍といった飛躍と、巨大なトラブルを経験した年だったかと思います。
Eiji(ドラムス/ヴォーカル)「本当にいろいろありましたね(苦笑)。まさに、天国と地獄というか……地獄はやっぱり、事故のことで」
――活動が危ぶまれるほどの大事故だったと聞いていますが、どんな状況で発生した事故だったのでしょうか?
Takahiro(ギター/ヴォーカル)「Hiroが運転していたんですけど、北米ツアー中にアトランタ郊外のフリーウェイを走っていたんです。そうしたら、逆走する車が突然中央分離帯を乗り越えて突っ込んできて」
Tomohiro「本当に、大惨事でしたね……誰が死んでもおかしくない状況でしたから。あのままバンドも終わっていたかもしれなくて」
Kazuki「バンド崩壊の危機と世界デビューっていう高低差がマジでハンパなかったですね(苦笑)。でも、UKで〈SONISPHERE〉のメイン・ステージにいきなり立てたり、〈サマソニ〉のオープニング・アクトで動員記録を作れたり……良いこと、嬉しかったことも、ものすごくたくさんあって」
Tomohiro「バンドの勢いが、急上昇してから急下降したような感じです。でも、その後の盛り返しもまたすごかったですけどね。記憶に残る1年でした」
まずは良いリフありき
――そんなさまざまなことが起こったにも関わらず、前作から1年も待たずにニュー・アルバム『In the blink of an eye』がリリースされるのが驚きで。
Eiji「僕が腕を怪我してしまって、3か月くらいドラムを叩けなかったんです。ツアーもキャンセルになったので、その時間が空いたんですよ。その期間に、集中して曲を書いたという感じですね」
Takahiro「前作『FACT』の段階で、次の作品の構想はだいぶ練っていたんです。ぼちぼち曲も作りはじめていたので、そのおかげで早く出せたというのもありますね」
――そもそも、FACTの制作スタイルはどのようなものなのでしょうか?
Kazuki「前々作以降、あらかじめカッチリとコンセプトを固めて作る、というようなことはしていないのですが、大まかな方向性をプロデューサーのマイケル“エルヴィス”バスケットといっしょに決めて作り上げる、というのが『FACT』以降の制作スタイルという感じですね」
Takahiro「まずは良いリフ。FACTの場合、それに尽きるんですよね。基本的にはカッコ良いリフが生まれたら、そこから曲が発展していくんですよ」
――FACTって、メロディーのキャッチーさが大きな特徴のひとつかと思うのですが、メロディー先行で曲が生まれることはないんですか?
Kazuki「メロディーは最後ですね。曲がほとんどできたら、後はみんなでカラオケ大会みたいな感じで(笑)」
Takahiro「FACT が毎回作曲の時に掲げる目標のひとつに、〈イントロを聴いただけでFACTだとわかる音楽を作る〉というのがあるんです。もちろん、Hiroのヴォーカルが入れば〈FACTだ〉とわかってもらえると思うんですけど、できればイントロのカッコ良さだけでFACTだとわかってもらえるくらいのインパクトを作りたくて。しかも活動の根幹に、〈オリジナルの音楽を作り続けたい〉という思いがあるので、単純なリフではダメなんです」
Kazuki「Hiro の歌が乗ったら良くなるのははじめからわかっているから、そこだけで勝負するのは止めようと。だから、いくら良いメロディーが思い付いても、カッコいいリフが生まれなかったらその曲はボツになりますからね。結局は、自分たちが納得できるかできないかの問題でもあるんですけど、納得のできないものはひとつも世に出したくありませんし。自分自身、ギターの音に惚れてギターを始めているので、イントロのカッコ良さから曲を最後まで楽しんでもらおうっていう、こだわりの表れかもしれません」
――ということは、ギターの2人がメインで作曲を主導していくわけですね?
Kazuki「そうなりますね。でも最終的には、それぞれの持ち寄ったものが最高のバランスで収まるように作っていきます。あと、ギターで言えば、僕はリフ中心に、Takahiroはリズムの刻み方を中心に考えていて」
Tomohiro「何気にこのやり方以外では、曲を作ったことがないですね(笑)」
Eiji「そこから先は、ジャムしながら自由に構想を練っていくか、ギター2人の構想に則って制作していくか。恐らくその2パターンですね」
Tomohiro「FACT は、みんなで作っている感じがすごくあります。確かにギターのリフからスタートすることも多いけど、誰がイニシアティヴを取ることもない。みんなで揉んでいって、それを最善の形にまで高めていくというか。この『In the blink of an eye』も同じような作り方で生まれていますね」
今回はヘヴィーにいこうと
―― 興味深いですね。今回のアルバムは、『FACT』に比べるとよりヘヴィーでラウドなサウンドが前面に打ち出されていて、エレクトロを採り入れたデジタル・サウンドのキャッチーな要素は若干後退した印象を受けました。しかも、どの曲もすごくコンパクトにまとめられていて。
Kazuki「最初は〈ゆったりとしたバラードも入れよう〉なんて構想もあったんですよ。でも、作り溜めたプリプロ音源を元にプロデューサーのエルヴィスと相談して、〈今回のアルバムはヘヴィーにいこう〉と決めたんです。それが指針になっていますね」
Takahiro「ヘヴィーなアルバムになったことで、結果的に俺たちが持っているポップな要素がより引き出されて、際立ったように感じるんですよ」
Kazuki「やっぱり、いままでのアルバムの流れは踏襲した作品になっていると思います。(過去の作品にも)俺たちの良さは十分すぎるほど詰め込まれていますから」
――〈ポップであること〉って、FACTの音楽における絶対的な条件だったり?
Tomohiro「条件というより、メンバーみんなが好きなんです。ポップさがあるから、全員が納得できるというか。それがないと成立しないというか」
Kazuki「意識してポップにしようと考えたことは、あんまりないと思います。作っていると自然な流れでメロディーも湧いてくるので」
――FACTの楽曲のすごさって、どんなにヘヴィーだろうがラウドだろうが、聴いた後に清々しさとか爽快感を感じることなんです。そういったところは、FACTにとって重要なことだったりしますか?
Kazuki「それは、俺のなかではありますね。最後まで聴いた時に〈あれ? もう終わっちゃうの?〉って思わせたいんです。それで、繰り返し聴いちゃう感じというか」
Takahiro「俺ら自身、作っている間中、同じ曲を繰り返し演奏していると〈しつけぇな!〉と感じることがあるんですよ(笑)。そういう曲ばかりだと、アルバムとして愛されないで、聴きたい曲だけをピックアップして聴かれちゃうかもしれない。せっかく時間をかけてアルバムを作るのに、それは避けたいじゃないですか。だからできる限りコンパクトにまとめようという思いはありますね。『In the blink of an eye』も、聴いてくれる人を飽きさせないで、最後まで一気に聴かせるようなアルバムに仕上がったと思うので、すごく満足しています」
Kazuki「最近は少しずつ、外からの見え方みたいな部分も意識するようにはなってきましたけど、基本的に自分たちが聴きたいアルバムを作るというスタンスは変わってないですね。僕たちの音楽を聴いてもらえばわかる通り、本当に欲張りなんですよ(笑)」
Eiji「やりたがりなんですよ(笑)」
Kazuki「カッコ良いものはカッコ良い。だったら何だって採り入れてやる!という思いは常に持ち続けているので」
――そのなかでも、バンドにとっての共通言語に成り得る音楽って、やっぱりハードコア・パンクやエモになるのでしょうか?
Tomohiro「うーん、どうだろう? いまとなっては、それすらどうでもよくなってきている気が……(苦笑)」
Kazuki「そうそう。メンバーみんなの良い部分を総合した結果がFACTなので、メンバーが違えばまったく違う音楽をやっている可能性もあるわけで。実は〈自分たちの音楽性は?〉とか、ほとんど考えたことがないんです。やりたいことをやる、それ以外は考えてこなかった。Eijiのドラムなら絶対に速い曲のほうがカッコ良くなるし……とか、メンバーそれぞれの魅力を最大限に引き出した結果かな?って、考えていますけどね」
瞼を閉じた一瞬で世界が変わる
――今回、アルバム・リリース前に出されたトレーラー映像でも〈脱・能面〉が意識的に盛り込まれていましたが、そもそもなぜ能面をかぶり、いまのタイミングで脱ごうと思ったのかをお訊きしたくて。
Kazuki「能面をかぶった経緯はホントに単純な話で。入り口をひとつでも多く作りたかっただけですね」
Takahiro「音楽からすんなりと聴いて、ハマってくれたらそれはそれでいいんですけど、なかなかそうはいかないじゃないですか? 聴いてくれれば良さをわかってもらえる自信はあったので、だったらキャッチーな要素を作って興味を引こうと(笑)」
Kazuki「見た目から音楽に入ってもらうのも、俺らは良いと思っているんです。きっかけはなんであれ、最終的に音楽に感動してもらえれば。だから、能面自体には〈海外でウケる〉ということ以外にはまったく意味がないんですけど(苦笑)、こうやって〈脱・能面〉とか扱ってもらうこと自体、すでにキャッチーじゃないですか。俺らとしては〈釣れた!〉みたいな感覚ですよね(一同笑)。だから、あくまでもただの入り口のひとつだと思っておいてほしいですね」
――では、能面を外したのは?
Tomohiro「能面には、いろいろと助けてもらったんですよ。そこに注目して、聴いてくれた人も実際にいたので。でも、もう十分すぎるくらい働いてもらったので、もうそろそろいいだろうと」
Kazuki「そろそろ、〈お疲れさまでした〉ということで」
――ただ、“slip of the lip”のPVでは依然として顔が見えないような演出がされていますよね。
Takahiro「そこは、新しい入り口みたいなものですよ。だって、動画でも画像でも、もちろんライヴでも、僕たちの顔を見ようと思えばいくらでも見られますからね(笑)」
Kazuki「気になる存在で居続けようという、その一環ですね(笑)。それはPVも同じなんですよ。今回もかなり派手な映像を撮りましたけど、あの映像に惹かれて音楽を聴いてくれる人を増やすために、時間とお金をかけてPVを撮っているので」
――FACTがキャッチーさをどれだけ尊重しているのかがよくわかります。
Kazuki「だから、アルバムの1曲目はかなり悩みますね。導入が上手くいかなければすべて上手くいかない、という思いも持っていますから」
――歌詞の面では、前作『FACT』は〈戦い〉がテーマとなっていましたが、今回のテーマは?
Hiro(ヴォーカル)「正直、リリックに関しては前回ほどコンセプチュアルなものはないかもしれませんね。でも、すごく素直に、レコーディング期間中に起きた出来事とか、経験とか、その時に感じたこととかが、歌詞に採り込まれていると思います。アルバム・タイトルの『In the blink of an eye』って、〈瞼を閉じた一瞬の間に世界が変わってしまう〉という意味なのですが、この言葉がすべてを表していますね」
――確かに、それを体感した2009年だったわけで。
Hiro「そうなんですよ。人生って、本当に一瞬のうちに変わってしまうことがあるんだなって。1曲目も、事故った時のことを歌詞にしているんです。〈一瞬にして目の前が一変する〉ということを踏まえてこの歌詞を読んでもらうと、アルバム全体の内容も理解してもらえるんじゃないかな?って。アルバム・タイトルから歌詞を紐解いてもらえば、意味はおのずと伝わってくれると思っています」
――では最後になりますが、2010年はFACTにとってどんな1年にしたいですか?
Takahiro「まずはツアーを成功させること。それは絶対条件ですよね」
Kazuki「しばらく日本ではツアーをしていなかったので、きっと、状況がだいぶ変わっていると思うんですよ。だからすごく楽しみなんです」
――かなり気が早い質問ですが、では、FACTの音楽は今後どのように変化していくとお考えですか?
Eiji「まったく読めないですね(苦笑)」
Tomohiro「次回作に取り掛かってみるまでは、たぶん何も見えてこない気がしています。もしかしたらよりエレクトロ化しているかもしれないし、次回はまったくそういう要素が入ってないかもしれないし。でも、自分たち自身がすごく飽きっぽい性格をしているので、より複雑になっている気がします。その次は、シンプルな音を求めていくのかな……?」
Kazuki「とにかく、ついてきてほしいですね。絶対に悪いようにはしないので(笑)」