PSG 『DAVID インスト』
いい意味で肩の力の抜けた活動スタンスと、自由度の高い三者三様のラップ・スタイルで2009年の話題をさらったヒップホップ・クルー、PSGがデビュー・アルバム『David』のインスト・ヴァージョン『DAVID インスト』をタワーレコード渋谷店のインストア・ライヴ限定で緊急リリース! 超貴重盤になること必至の本作と同時収録される新曲3曲について、bounce初登場の3人が語る。
邪念がないヒップホップがいちばんヤバイ
――PUNPEE君、S.L.A.C.K.君の2人は、兄弟で音楽好きなお父さんの影響があったようだけど。
PUNPEE「結構後で知ったんですけど、母親もバンドのヴォーカルやってたらしくて。親父みたいに自分から進んで掘ったりはしないですけど、一応(音楽が)できるみたい」
S.L.A.C.K.「昔、コーラスをやらせてみたら意外と上手くて、ハモりもアドリブで入れていけるみたいな」
――音楽好きな家族なわけか。お父さんはいろんな音楽を聴くみたいだけど、ブラック・ミュージックがメイン?
S.L.A.C.K.「白人のロックっすね。ウッドストックとかもそうだし、クリームとかボブ・ディランとか……」
――じゃあ、2人もそういう音楽からの影響もあったり?
PUNPEE「ありますね」
S.L.A.C.K.「超聴きましたね。ボブ・ディランとか超好きっすね、ああいう土臭いの。一昨日ぐらいも親父と2人でザ・バンドの『Music From Big Pink』の特集番組を観てて。〈こいつは何なの?〉とか、聴きながら音楽的に重要な精神の部分も学ぶ感じ」
――ブラック・ミュージックに早くして目覚めたんだ。3人が音楽を始めたのは高校時代だよね。
PUNPEE「トラック作りはじめたのも高2とか高3ですね。ビースティ・ボーイズの自伝とか読んでて、中3か高1ぐらいの時に。それでサンプリングして音を作るカッコ良さを知って、いろんなものをごっちゃ混ぜにして、バンドみたいな音も入れたりとかループさせたりとか、そういうことをしてた。トラック作ってる人は周りにいなくて、俺がリリックを書いて声の高い友達にラップさせたりとかして、MTRで遊んでました」
S.L.A.C.K.「邪念がないヒップホップがいちばんヤバイってことをその頃学んだ気もする。違う要素をプラスしていくカッコ良さじゃなくて、削ぎ落としてどれだけシックっていうか、シンプルにするかっていう」
PUNPEE「S.L.A.C.K.のソロはそういう感じかもしれないけど、俺はビースティが好きだった頃の感じに近いかも。とにかくカッコ良くまとめられればいいかなっていう」
ワケわかんないのがカッコ良いと思ってた
――ともあれ、曲作ったりして友達と遊び始めたなかにGAPPER君もいて。
PUNPEE「ヒップホップ聴いてる奴も限られるじゃないですか。それで隣のクラスに聴いてる奴がいるっつって。ミックスMDみたいなのを作って、いろんな人に渡してる時にGAPPERが〈それもらっていい?〉って感じで仲良くなって」
GAPPER「そのちょっと前に別の友達にヒップホップを紹介してもらってて、なんとなく聴いてたんですよ。それまでは普通にポップス聴いてて、ブラック・ミュージックはおじさんが引っ越す時に忘れてったレイ・チャールズのCDが好きだったくらい」
――高校時代にS.L.A.C.K.君も含めて5人組の板橋録音倶楽部(IRC)を結成して、それぞれのソロ活動を挟んでいまのPSGに至るっていう。
PUNPEE「2人が抜けた後もしばらくグループはあったんで、そこで俺はトラック作ったりとかしてましたね。身内にしか配ってないすけど、CDもしっかり作ってたよね、ジャケ作ったり」
S.L.A.C.K.「形から入るんだよね、いい意味で」
――(笑)そういうD.I.Y.なスタンスとか作品への気安い距離感はいまの活動にも引き継がれてるかと。
PUNPEE「そのまんまですね」
S.L.A.C.K.「なんも変わってない。(ソロの頃も)家でギター弾いて、基本的なコードもFまでしか覚えてないなかで、1日で2曲ぐらい作る感じで、20曲、30曲ぐらいのアルバムも作ったりしてたし。もうなんかめちゃくちゃで、アコーディオン入れて〈タイタニック〉のダンス・シーンみたいな音楽――アイリッシュっぽい音楽が好きでそういうのをやったり、ハンバートハンバートのパクリみたいな爽やかなのも、銀杏(BOYZ)も好きだったし」
PUNPEE「それを友達に配ったりしててね」
S.L.A.C.K.「それも3枚ぐらい作って飽きちゃいましたけど。その頃はライヴでも1、2回ギターの弾き語りしてましたね。ワケわかんないのがカッコ良いと思ってたし、目立とうと思っていろんなジャンル入れてやってた」
ここにこいつらがいて、いちばんやりやすいからいっしょにやる
――改めて3人でやろうってなったのはどうして?
S.L.A.C.K.「普通に〈ずっと仲良くいるからやりやすいっしょ〉みたいな、すっげえシンプルな話っすね。(いま手元に)あるものでモノを作る感覚に近い関係性っていうか、ここにこいつらがいて、いちばんやりやすいからいっしょにやるっていう楽さ。普通のチームで〈1年前に組みました〉みたいな奴らだったら、ビート聴かされた時によくわかんねえけど〈うん、ヤバイよ〉っていう意見も出てくると思うんですよ。けど、俺たちは長時間かけて作ったものでも〈ダッサ! ないないない〉っていう結果も出せる」
――『David』に入ってる“YES.”でもS.L.A.C.K.が〈このトラック大嫌い〉って言ってるくらいだもんね。
PUNPEE「バラバラな考えはありつつ、まとまって曲作るとパッと出来ちゃった、出来ちゃいましたっていうのがあるからやりやすいですよね」
――S.L.A.C.K.君のビートもありつつ、『David』のアルバム全体をトータルにまとめたのはPUNPEEくんだよね。
PUNPEE「(トラックでは)いろいろ手の込んだことはしましたね。アウトロで声ネタ入れたり映画っぽく作ったり。ラップ、フック、ラップっていうシンプルなカッコ良さもあるんすけど、そこに別の何かを入れたがっちゃうんですよ、昔から。曲に忠実な声のネタだったりスクラッチだったり」
――例えば“きゃつら”にあるブリッジ的な歌もしかり。
PUNPEE「曲に展開つけるのってスキルが上がってることの提示なんじゃないかとか、たぶんどっかで思ってて、展開がないと自分的に気が済まないから作っちゃう」
ろ過されて最終的に集まった曲たち
――レコーディングに向かう気持ちはどうだった?
GAPPER「2人はある程度名前が出てたから、アルバムが出るんだっていうことになって、やっぱそこに乗っからなきゃっていうのも俺にはあって」
S.L.A.C.K.「いつもよりプロぶって作ったよね? 人に聴かれるってちょっとわかったうえで作るのと、まったく捨てるものがない状態で作るものの違いっていうか」
PUNPEE「いま主流のパキパキしたサウンドにしようとかそういうのはなくて、自由にできる範囲でバランスを考えた。実はPSGでアルバム作るとかそういう意識のない時に出来てた曲も入ってるんですよ」
――その点では、ここ数年の3人の活動の総括的なところもあるのかも。
PUNPEE「ろ過されて最終的に集まった曲たちっていう。人に投げて使われなかったみたいなトラックも実は結構多くて、これなんで使わないんだろう、じゃあ自分たちで上手く使ってやろう、っつってまとまった感じっすね」
――同じテーマでもそれぞれ歌う内容が違ってくることは当然あるだろうけど、特にGAPPER君が書いてることは現実の苦しみが裏に滲んでくるような瞬間もあるよね。他の2人はもっと音をそのまま楽しんでるっていう。
GAPPER「全然意識してないです。具体的に誰かに影響されたっていうのはなくても、(何がしかの)影響は普通に受けまくってるから、そういうのは出てるのかもしれないけど、何かを表現してるその裏の意味があって……とかはない」
S.L.A.C.K.「リリックは毎回伝えたいことあるんすけど、ざーって書いて〈出来た〉ってなってるんで、結構俺も、歌詞覚えてなくて。その時に出来た状態が100%で、完成したその音源がすべて」
PUNPEE「テーマは投げるけど、だいたい3人とも取っ散らかっちゃってるっていう(笑)。ただ、最初からいろんな人に楽しんでほしいっていうので作りはじめたし、それは最後まで変わってない。“MONSTER”はただのハエの歌だし、“2012”だったら2012年のことだし、“M.O.S.I.”もそう。隠喩的なものはこのアルバムにはないです。ホント、アホな部分を出してる」
S.L.A.C.K.「こんぐらいの曲はもっと全然できますって感じで作ってるんで、深くないよね、一個一個が。もっと単純に、音で楽しんでくれっていう」
――その点では〈作品〉って言うのもおこがましいかも。
S.L.A.C.K.「記録的な感じっすね。その瞬間の記録集。思ったこととかをいいメロディーに記録して、それを世の中に残しておくみたいな」
PUNPEE「あん時はこれみたいなね」
S.L.A.C.K.「作ろうとして曲作るのは〈それ風〉っすよね。何も考えないで出来たそれよりは」
ある意味で『David』のバラシ、種明かし
――だからいい意味で、出来ちゃったアルバムっていう。さらに、1月29日のタワー渋谷店でのインストア・ライヴでは、当日限定で『David』のインスト盤に新曲を3曲加えたCDが販売されるけど、今回インスト盤リリースに至ったわけは?
PUNPEE「『David』作ってた時に、基本のループがすげえカッコ良いトラックを選んでたんで、インスト出したいなあっていうのがあったんですよ。ドクター・ドレーとかナズとか、カッコ良いアルバムはインスト盤も出てて、そういうのも好きだし。どれもワンループで聴いても結構カッコ良いと思うんですよね。“かみさま”とか“2012”とか“I Dub You(残響の詩)”って、それこそMCバトルのブレイクで使ってもいいんじゃないかってぐらい。そこに出来るべくして出来た新曲も3つ入れて」
――新曲の3曲については?
S.L.A.C.K.「なんか運動会っぽくない? 各自が常に曲を作ってるんすけど、みんなでたまに集まって力を合わせてやるっていう。カオスだよね。ミスマッチ・カオス」
PUNPEE「たしかに各々でいろいろやってて、集まってダラダラやる感じ? そのダラダラをまとめるためにがんばるみたいな(笑)。作ってる時も遊んでる感じで、まとめる時はその遊んでるのをどうやってもっとカッコ良くできるか考えるっていう」
――“Without you”に客演してるMC KOMICKLINICKについても聞かせてもらいたいんだけど。
S.L.A.C.K.「スケボーやってて、俺といっしょにいるだけの仲間ですね。19歳ぐらいで、ラップもド下手な奴で。そういう奇跡がほしかった」
PUNPEE「〈メロディーに合わせて歌ってくれ〉って言ったら、見事に外しまくって」
――ははは。上手くはないけど、味はある。
S.L.A.C.K.「下手さは狙って出せるもんじゃないから、そのシンプルないちばんいい部分の奇跡っていう」
PUNPEE「子供が描いた絵みたいな。結構印象に残るリリックで歌ってもらって、よくわかんないことになってる(笑)」
S.L.A.C.K.「“Without You”は聴いた感じが好き。ビートもいいし、正統派なヒップホップにいちばん近い。俺がビートをやった“いいんじゃない”は〈別にいいけど、それでいいんじゃねえの?〉ってテーマで作った曲なんですよ。結局この世の中、いちばん救いになる言葉は〈テキトー〉とか〈別になんでもいいよ〉みたいな、いまの不況を投げ出すような言葉。それがいちばん慰めになるんじゃないかな……って、いまのはちょっとアドリブの後付けで説明したんですけど、そういう感じだと思います。ビートも聴きやすくなってるよね。“寝れない!!!”は……どう?」
PUNPEE「俺は“寝れない!!!”がいちばん好き。フックから思いついて、なんか寝れない時のイライラした感じそのまま。睡眠時間が少ないのに、寝ようとすると寝れない、そういうイライラした時の曲。原始的ですけど、すげえマイクから離れて録ったラップを後で調整したり、音響でいろいろ実験しました」
GAPPER「“Without You”も好きだけど、“寝れない!!!”の声質が気持ちいい」
S.L.A.C.K.「ジャンル超えしてるよね、“寝れない!!!”は。俺的には専門じゃないけど、いいんじゃないすか。言ったら“Monster”的じゃん?」
PUNPEE「そうかな。もっと生音じゃない? でもなんかアレっすね、自虐的になってたり怒ってたりっていう3曲になっちゃいましたね。それで最後は〈テキトーでいいんじゃないの?〉って言うみたいな(笑)」
――はは。改めてこのインスト盤をどう聴いてほしいと?
S.L.A.C.K.「小っちゃい音で部屋でさりげなくかけとくと意外といい感じなんだよね。そういうBGMにもいいし、『David』本チャンじゃなく、〈インストのほうがいいんだよね〉つって、いっつもクルマで聴いてるのもちょっとイケてるかも(笑)。〈これ何?〉〈もう売ってないけどね〉みたいな。ジャケをまた俺がやるんで、ちゃんとモノ自体カッコ良いものになると思う」
PUNPEE「〈こんなの出てたんだ〉みたいなこと言ってくれると嬉しいっすね、4、5年後に」
S.L.A.C.K.「ある意味、『David』のバラシ、種明かしの要素もあるし、新曲の3曲はシングル・レヴェルの3曲だし、ここでゲットしないともう一生ゲットできないすから、っていうのもあるっすね。あとはこれにラップを乗せて、PUNPEEにそのラップを送ってくれっていう」
PUNPEE「ラッパーの人には編集したり展開をつけてライヴで使ったりしてほしいですね」
――じゃあ最後に、29日のインストア・ライヴへの意気込みを。
S.L.A.C.K.「ライヴも昼だから緊張しないように」
――昼じゃなくて、20時です。
S.L.A.C.K.「20時です(笑)。20時だから緊張しないように。インスト+新曲3曲のCDもこの日しか買えないので、ってことで」
PSG ライヴ・スケジュール
1月23日(土)@ 大阪・鰻谷sunsui 「Enter」(韻踏合組合、THE FLEX UNITE、etc)
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1月29日(金)@ タワーレコード渋谷店インストア・ライヴ(20:00~)
1月29日(金)@ 東京・代官山LOOP (ECD+ILLICIT TSUBOI、マイクアキラ、etc)
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