spirit page 『Periodic Sentence』
エモーショナル・ロックの聖地・札幌。bloodthirsty butchers、eastern youth、そしてキウイロール~Discharming manなど、カリスマ的な先人たちの血をかの地で受け継いだ新世代バンドがまたひとつ――。spirit pageのソングライター、川岸恵介(ヴォーカル/ギター)は自身の音楽的ルーツについてこう語る。
「KLUB COUNTER ACTION(エモやハードコア系のレーベルも運営する札幌のライヴハウス)に出演しているバンドにはかなり影響を受けましたね。COWPERSとかキウイロールとか……たくさんです。あとはLOSTAGEが大好きです。でも、BUMP OF CHICKENとかMr.Childrenとかの純粋な歌モノも好きで。分厚いサウンドに、耳に残るようなメロディーを融合できればと思ってます。ジャンルに捉われず、何でも聴くところが楽曲に表れているかもしれません」(川岸)。
2003年に川岸、合月亨(ベース)、三浦雅史(ドラムス)の3人で結成されたバンドは、2008年にDischarming manのサポート・ギタリストも務める神代大輔の加入を経て現在の4人体制へ。「3人の頃は勢いだけでやってた感じだけど、神代が入ってからはコードひとつひとつを考えるようになりました。それまでそうやってなかったのがおかしいんですけど(笑)」とは合月の言だが、ツイン・ギターを擁することでサウンドにさらなる厚みと構築美を獲得した彼らがファースト・アルバム『Periodic Sentence』をリリースする。鼓膜から一直線に心臓を貫く力強いメロディーに〈道産子エモ〉らしい熱を込める一方で、変拍子や転調を用いながらも〈歌〉を詩情豊かに演出するしなやかなロック・サウンドが彼らの武器。さながらエモーショナル・ロックのニュータイプとも言えそうな楽曲群は、果たしてどのように生まれるのだろう?
「ギン君(川岸の愛称)が打ち込んできた風変わりな曲を理解するために、一生懸命がんばります(笑)」(神代)。
「そうだね。そこからそれぞれの解釈でアレンジを進めていく感じで。そうすると、なぜかDJ(三浦の愛称)に対する要望が多くなってくるんです(笑)。だからキメとか変拍子とかが多いのかもしれないですね。三方向から意見が飛んでいくんで。DJ大変だね(笑)」(合月)。
「大変だけどやり甲斐があります」(三浦)。
最初から最後まで聴くことによって完成するアルバム
挑戦的なベースラインと対話するかのような2本のギターがアグレッシヴにドライヴする“Paranoia games”から叙情的なギター・サウンドに強烈なノスタルジーを呼び起こされる“All”まで、多彩な楽曲がスムースに連なった全9曲。そのなかには、〈夢〉〈記憶〉といった言葉を多く散りばめながら、喪失感や哀愁、音楽に対する想いを描いたセンシティヴな詞世界が広がっている。
「過去が積み重なっていまの自分があると思っていますが、やっぱりどうしても〈記憶〉は風化していくし、〈夢〉って音楽で成功することだけど、それも長く追っているとなんで音楽をやってるのかわからなくなる時もある。でも、そういう部分を歌に詰め込んでしまえば、少しでも風化を防げたり、夢に向かう足が迷わなかったりするんじゃないか、っていう想いが根底にあります。全部の曲がそういったテーマではないですが……思い出とか経験とか、積み重ねてきたものを忘れたくないっていう気持ちは、他の人より強いと思います。だから、歌詞は忘れたくない出来事があった時に出来ることが多いです。“All”は、専門学校を卒業する時にお世話になった講師の方々や、落ち込んだ時なんかに支えてくれたクラスメイト、あとは家族へ向けて書いた曲です。〈ありがとう〉っていう気持ちを言葉にしても、なんだか自分が伝えたいだけの感謝が伝わってない気がして。それで感謝の気持ちを歌にしよう、歌なら言葉以上に伝わると思って作りました。“Paranoia games”は、〈物〉に感情があったらこうかな、っていうのを想像して書いたんです。歌詞に出てくるもので言えば、雪はやっぱり溶けてしまう時は悲しい気持ちなんじゃないかな、とか。想像の域は出ないんですけど、そういった〈物の感情〉を代弁することがテーマで、“All”とは視点が異なりますね」(川岸)。
巧みな構成でドラマティックに展開されるサウンドと独自の視点を持った言葉との邂逅によって、爆発的なエモーションが解き放たれた本作。激しい起伏をもって聴き手の心を揺り動かす感情の波は、9曲すべてを通して聴くことで、ひとつのゴールへと帰結する。
「『Periodic Sentence』は〈いちばん最後に重要な情報を置くことで最後に全体の文意がわかる・完成する〉っていう文法的意味で、今回は最初から最後まで聴くことによって完成するアルバムにしたかったんです。結成当初からある“All”をアルバムの最後に置いたのも、その意味に掛かってきて良いかなと。ずっと大事にしてきた曲なので」(川岸)。