キノコホテル 『マリアンヌの憂鬱』
そのサウンド、ヴィジュアル、キャラクターから〈昭和元禄〉的な狂騒を匂わせ、目下、草食系男子やM男といった現代っ子のハートを奮い立たせながら、あらゆる意味でのセンセーションを巻き起こしている〈女だらけの〉ビザール・ロック・バンド、キノコホテル。このたびメジャー・デビューを果たした彼女たちに、bounceがファースト・コンタクト。どこまでがフィクションでどこまでが真実か、そんな彼女たちの発言をどう読み取り、どう楽しんでいただくかは読者の皆さん次第。ミステリアスな彼女たちに、はて、どこまで迫れたでしょうか?
マリアンヌ東雲
まずはこのバンドのリーダー……もとい、このホテルの支配人、マリアンヌ東雲(歌と電気オルガン担当)。東雲財閥の一人娘として生まれ育ったが、上流階級の退屈な暮らしに嫌気が差し、家出。すでに一族からは勘当されており、銀座の高級クラブで見つけたパトロンに出資させ、キノコホテルを創業したというが……。
マリアンヌ「親からはいまだに家の敷居を跨ぐなって言われてますから。オマエはウチの子じゃないって(笑)。娘がこんな調子ですから、いまは飼ってる猫を娘のように可愛がってるみたいですわよ」
――どーでもいいことなのかもしれませんが、みなさんの芸名はどういう由来で?
マリアンヌ「芸名なんかじゃないわよ。そういう名前で弊社に在籍している従業員ということなので……〈本名です〉って言うこともありますけど、あきらかに相手の顔色がね(笑)。〈何? この痛いオンナ〉って顔される時もありますけども(笑)」
――それぞれの出身地からっていうわけではないんですか?
マリアンヌ「全然関係ないです。私も江東区出身じゃないですし。顔を見て湧いたイメージとか、あとは突然〈好きな地名どこ?〉って訊いて、それで決めたりとか。
――マリアンヌさんはキノコホテルを創業する以前に音楽活動はされていたんですか?
マリアンヌ「キノコホテルをやりはじめる半年ぐらい前まで、私が作った曲で、男女混合のバンドをやってたけど、それくらい。でまあ、それがなくなってしまい、〈でも、せっかくオリジナル曲があるんだからここで終わらせるのもどうなのかしら〉と。プロをめざすまでは思ってなかったですけど、新しいメンバーを探して続けてみようと思いまして。その時に、今度は全員女の子にしてみよう、女の子だけでクォリティーの高いバンドをめざそうと思ったのね。オイシイから、っていうのももちろんあったけど(笑)、やっぱり、人に注目されないことには始まりませんもの。周りを見渡しても、おんなじフィールドで格好良い女の子のバンドっていないし。現在の4名になったのは2008年の暮れで、創業当初の従業員はもう私だけ」
エマニュエル小湊
続いては、エマニュエル小湊(電気ベース担当)。貧しい大家族に生まれ、幼い弟妹の世話をしながら育つが、食い扶持を減らすため無残にも捨てられてしまったという彼女。キノコホテルの門の前でうずくまっていたところ、掃除をしていた執事に拾われ、その後、キノコホテル売店の売り子から電気ベース奏者へと大抜擢されたとのことだが……。
――ベーシストとして誘われた時、キノコホテルにはどんな印象を受けました?
エマニュエル「雇っていただく前からライヴを観に行ったりしてたんですけど、新鮮でしたね。古い時代の音楽っぽいって言われたりしてますけど、私はそういった音楽にまったく馴染みがなかったので、自分にとってはまったく新しいものっていう印象でした」
――社風にはすぐに馴染めました?
エマニュエル「そうですねえ、昔の音楽とかも聴いて勉強しようかと思ったんですけど、結局身につかず(笑)。でもまあ、支配人からは〈弾きたいように弾けばいいわよ〉と言われまして。いまのところは大きな問題もなく馴染んでる感じですね。まあ、支配人が曲を作って持ってくる時にベースラインもある程度決めてくるので、それを基本に、少し自分なりに崩しながらやってる感じです」
――あと、衣装には抵抗ありませんでした?
エマニュエル「意外となかったですね。こういう時じゃないとこんな格好も、膝上を出すなんてこともしないでしょうから、楽しくやってます」
マリアンヌ「かわいいんだから、普段からもっと脚を出せばいいのに」
エマニュエル「かわいいと脚は別で……」
マリアンヌ「かわいい子は、脚もかわいいのよ!」
――エマニュエルさんの衣装は他のメンバーと比べて、若干タイトかつ丈が短めのような気も。
エマニュエル「それはたまたま……」
マリアンヌ「うっかり洗濯機で洗っちゃったから縮んだのよ、この子だけ(笑)」
イザベル=ケメ鴨川
続いて、電気ギター担当のイザベル=ケメ鴨川。小学校を退学になって以来、道徳の通用しない不良娘として無軌道な人生を送っていたが、更正のため半強制的にキノコホテルに入社させられたらしいが……。
――イザベルさんは、フォーク・シンガーとしてソロ活動もされているそうで。
イザベル「kemeの名前でやってます」
――フォークを歌っているということは、60年代や70年代の音楽に関心が強い?
イザベル「好きなもののひとつ……ではありますね。いまはさほど聴かなくなりましたけど、十代の頃はよく聴いてましたね」
――学校に行ってないこともあって、漢字が弱いそうですね。
イザベル「そう……ですね(苦笑)」
マリアンヌ「ブログも友達に代筆してもらってるそうよ」
イザベル「ソロの曲を作る時も、歌詞はほとんどひらがななんです」
――キノコホテルには半強制的に入社させられたそうですが、いまではすっかり落ち着いて。
イザベル「ずっとアコギで、エレキはしばらく弾いたことがなかったんですけど、キノコホテルに入社させられるという話になって、ちょっと久々にやってみようかなって。やれるかどうか怪しかったんですけど、まあ、やれるとこまでやってみようかなと。で、いまに至ってるんですね」
――エレキ歴はどのくらいあったんですか?
イザベル「ヴェンチャーズとか寺内タケシとかが好きで、サーフ・バンドをちょっとやってた時期があって」
――ガレージではなく、いわゆるエレキ・インストですね。
イザベル「そうなんです。実はノーキー・エドワーズさん(ヴェンチャーズ)やエド山口さんと共演したこともあって。
――おおっ!
マリアンヌ「学歴もだけど、そういう不思議な過去の経歴が、いまになって遺憾なく発揮されてるんじゃないの?」
イザベル「そうじゃないかなあ」
マリアンヌ「やっぱり、フツーの女の子ギタリストではウチの仕事は務まらないですからね。これぐらいのぶっ飛んだ人じゃないと」
――キャリア的にはメンバーのなかでいちばん場数を踏んでいるということ?
マリアンヌ「そう、だから度胸があるのよこの子」
――ステージの上で支配人からのディープキスに応えられるそうですね。フツーの子なら逃げますよ。ところで、支配人は〈そっち〉の気もあるんですか?
マリアンヌ「まあね……女の子も好き、ですね。全然、キスから先のこともできるわよ(微笑)。ケメちゃんさえよければ……(ふたたび微笑)。
イザベル「そこまでされたら、さすがに泣いちゃいますね」
マリアンヌ「泣かせてみたいわ~。でも、この子たちは至ってノーマルだから」
ファビエンヌ猪苗代
しんがりはドラムス担当のファビエンヌ猪苗代。長閑な農村部にて生まれ育ったという彼女。上京後、某餃子チェーン店の大食い王に輝いていたところに支配人が居合わせ、おもしろそうな子だからという理由でスカウトされたという。
――これまでのバンド歴は?
ファビエンヌ「みんなみたいに天才肌ではないので、けっこういろいろとやってるんですけど、これといったものはないんですよね」
――ずっとドラムスだったんですか?
ファビエンヌ「そうなんです。ずっとドラマーになりたくて。小学生の時、鼓笛隊が持ってたスネアドラムを見て〈これだ!〉って。ドラムがいちばん格好良いと。でも、ドラム・セットはおろかスネアすら買ってもらえなかったので、ちゃんと叩きはじめたのは大人になってからで」
――鼓笛隊のドラム、いわゆる小太鼓って、けっこうな花形楽器ですよね。やりたい子たちも多かったんじゃないかと思うんですけど。
ファビエンヌ「もう、マンガ本を積み上げて菜箸で叩きながら夜な夜な練習して、その座を勝ち獲ったんですよ」
――で、大人になって念願のドラム・セットを買い……。
ファビエンヌ「そうですね。最初はコピー・バンドから始めて、そのうちオリジナルをやるようになって。とはいっても、自分のリーダー・バンドではなかったので、曲作りはしてませんでしたけど」
――キノコホテルにスカウトされた時、入社の決め手になったのはどんなところですか?
ファビエンヌ「そうですねえ。音楽を真面目にやるようになって、いろいろと先人たちの音楽も聴くようになってましたし、キノコホテルと同じような匂いのものだとか周波数のものを聴いてたりはしてたんで、けっこうすんなり受け入れられたんですね。あとは、支配人について行ったらきっと楽しいだろうな、っていうオーラがバンドから出てたんですよね」
――従業員のなかでは、支配人に対してもっとも従順そうに見えますが。
ファビエンヌ「そうですか?」
マリアンヌ「いやもう、頑固ですよぉ。でも、そこがかわいいんだけど(微笑)」
時代を再現したいグループはいるけど、キノコホテルはそうじゃない
そんな4名の従業員によるキノコホテルが、このたび初のスタジオ録音盤『マリアンヌの憂鬱』をリリースする。全8曲から成るこの作品は、叙情的であり、官能的であり、ポップであり、グルーヴィーであり、そして何より中毒性の高い、彼女たちの音楽性を簡潔かつ濃厚にパッケージしたものである。
――キノコホテルのサウンドは、60年代の歌謡曲+ビート・グループ=グループサウンズ的な雰囲気がありますけど、ディテールそのものというよりは、そういった音楽が持っていた叙情性や昂揚感といったようなものをうまく捉えているものだなあと思うんです。
マリアンヌ「グループサウンズであるとか歌謡曲であるとか、そういうものを聴いていた時期はありましたけど、別にそこに深く入り込んでたわけではないんです。それこそ、レアなレコードを集めてた、とかもなくて、いろんな音楽を聴いてきて、通過点のひとつにそういうものがあった、ってだけ。ただ単におもしろかったから。でも、人に薦められて初めて曲を作ってみた時に、どうもそういったニュアンスのものばっかり出てくるので、ということは、なんだかんだでこれが自分のルーツなのかしら?って思って。時代やジャンルというよりも、たぶん、おっしゃったような部分に惹かれてるのかもしれませんね。始めた当初はまったく意識をしなかったと言うと嘘になるけど、いい演奏ができるメンバーが揃ってくると、時代とかディテールとかにこだわるのが馬鹿馬鹿しくなってきて。4人で楽しく、とにかく格好良い演奏をするっていう、それだけを考えればいいのかなと思い、それでいまに至ってるんですけど」
――ヴィジュアルは結果的にこうなった、ということ?
マリアンヌ「楽曲ありきでやってるグループなので、私が持ってきた曲がまずあって、それに見合ったバンドの雰囲気だとか、コンセプトを肉付けしていったものがこういう形になっているの。コンセプトありきと思われることが多いんですけど、そうではなくて、曲に合うパフォーマンス、衣装、という順序で膨らんでいったもので」
――コンセプトありきではないということは、みなさんが使われている楽器にも表れていますよね。いわゆるヴィンテージづくしではなく。
マリアンヌ「そうですね。私が使っているノードエレクトロっていう楽器も、60年代あたりのディテールにこだわってる人たちだったら、絶対に選ばない楽器だと思います。私は、持ち運びしやすくて性能もいいからっていう理由で使ってるだけで」
――とにかく、サウンドにしてもヴィジュアルにしても、イマドキの音楽にはないインパクトやムードがありますよね。
マリアンヌ「そうですねえ。人を感動させたいとか、世の中変えたいだなんて気持ちは一切ないんですけど、やっぱり聴いていただく以上は、その人の心に大なり小なりの変化が起きてほしいと思うので……それを押しつけるようなことはしたくないですけど、やっぱりなにかしらの刺激は与えたいなとは思っているから、まあ、私たちなりの手法で、そういうものを提示していけたらなと思ってます。当時のそのまんまをやろうっていう意識のメンバーは誰もいませんし、だからオリジナル曲をわざわざ書いてるんだし、そういったところはライヴなりパフォーマンスなりにも出てるんではないかしら。時代を再現したいグループっていうのはいるけど、キノコホテルはそうではないの」
――歌詞に関してもムードがあるというか、聴き手にイマジネーションを委ねるような言葉遣いをされてますよね。これは昨今のメジャー音楽に足りていない部分だと思うんです。
マリアンヌ「そうですね、そうなんですよ。でも、歌詞を書くのは本当に苦手で、誰かに書いてほしいぐらいなんです。曲は絶対自分で書きたいと思うんだけど」
――官能的でもありますよね、世界観が。
マリアンヌ「確かに、最近は性の匂いがする歌ってないですものね」
――“真っ赤なゼリー”っていうタイトルだけ聞いても、ものすごくイマジネーションが湧くし。それこそ淫らな想像すらできる。
マリアンヌ「〈でも、結局なんなの?〉っていうね」
イザベル「だいたい、〈真っ赤〉っていう言葉も〈ゼリー〉って言葉も歌詞のなかにはないよね」
マリアンヌ「あら、本当。ゼリーと思しき喩えも出てきてないわね」
――もちろん、エロスだけではなく気品もある。知性と痴性を兼ね備えた詞世界かと。
マリアンヌ「知性と痴性! それ、いいわね。それいただくわ」
――とにかく、こういったサウンドをメジャーのフィールドに送り出すということは、結果的にメジャーに対するシニシズムになっているとも思うんですが。
マリアンヌ「そうですねえ、そういったシニカルさがあるのは確かですね。まあ、私がもともとそういう人間だから(微笑)、どうしても滲み出てしまうのかも。だいたい、出すほうもすごいですねって、インタヴューのたびに言われますから」
――最後にこれからの野望を。メジャーで出すからには、売れたいという気持ちは当然強いですか?
マリアンヌ「まあ、売れたくないって言ったら嘘よね。私たちはキワモノのような扱いをされることもありますけど、このスタイルでどこまでいけるか、日本列島を浸食していけるかっていう野望はありますね。キワモノで、しかもガールズ・バンドで、って、それだけでもナメられるから……だけど、それを覆すだけの説得力がある活動をいかに継続していって……要は自分たちでどれだけ好き放題やって満足していけるか、っていうところかしらね」