インタビュー

阿部真央 『ポっぷ』

 

2009年1月、ファースト・アルバム『ふりぃ』でデビュー。思春期特有のヒリヒリとした感情や未来に対する期待と不安、(妄想混じりの)奔放な性を含んだ恋愛観などをテーマにした楽曲、そしてアコースティック・ギターを激しく掻き鳴らし、存在そのものをぶつけるような歌を放つライヴ・パフォーマンスで熱い注目を集めているシンガー・ソングライター、阿部真央。その後次々にリリースしたシングルもスマッシュ・ヒットを記録し、大型の邦楽フェスにも数多く出演するなど、まさに理想的とも言えるデビュー・イヤーを駆け抜けてきた。しかし彼女自身はこの一年を、「すごく濃密で充実していたけど、いつも苦しいイメージが付きまとっていた」と振り返る。

「慣れない環境で初めての経験ばっかりだったっていうのもあるけど、〈阿部真央をこう見せたい、こう示したい〉っていう明確な指針がなかったことだと思うんです、私のなかで。もちろん曲を書くのも表現するのも私なんだけど、どこか音楽業界の常識のなかで受け身でやっている感覚もあったし……。でも10月の後半から11月にかけてのライヴで、そこが大きく変わったんです。何て言うか、もっとアグレッシヴにやっていいんじゃないかなって。そのことに気付くまでの一年だった気がしますね、2009年は」。

彼女の言う〈アグレッシヴ〉は単に攻撃的という意味ではない。もっと自由に、もっとわがままにみずからの音楽を追及すること。〈これが正しい、これがやりたい〉と感じれば、それを周囲に伝え、できる限り正確に実現していくこと。つまり自身の音楽的欲求に従うことこそが、その真意なのだ。彼女のなかに生まれた新しいモチヴェーションは、例えばニュー・アルバム『ポっぷ』に先駆けてリリースされるシングル“いつの日も”からもはっきりと感じられる。いつか人は死ぬ。だからこそ、この一瞬一瞬を大切に刻んで、大事な人を余すことなく愛したい――そんな切実な思いを込めたこの美しいバラードをシングルとして発表することは、彼女自身の強い意志によって決まったのだという。

「まわりの反応も賛否両論だったし、〈阿部真央にはもっとロックをやってほしい〉っていう声もあるみたいで。知らねえよ、って思いますけどね(笑)。きれいなバラードを歌っても、ロックな人はロックじゃないですか。うわべだけのイメージをかち割って、阿部真央のロックをちゃんと示すっていう意味では、いいシングルだと思うんですよね。私自身もいい歌が書けたと思っています」。

心地良い疾走感に満ちたバンド・サウンドと共に〈好きかわからぬまま隣で/笑っていたんだね/悲しいよ〉というフレーズが突き刺さってくるギター・ロック・チューン“未だ”、エレポップのテイストを取り込んだ“モンロー”(だけどアコギはちゃんと鳴ってるところがポイント)、男性目線の悲しい恋愛をアコギ一本で歌った“もうひとつのMY BABY”、そしてなぜか会社員の悲哀をテーマにした“サラリーマンの唄”──ニュー・アルバムにも彼女の開けっぴろげなセンスがさらに色濃く込められている。

「いろんなこと言われると思うんですよ。〈阿部真央もピコピコした曲やるんだね~〉とか(笑)。でもそれは全部やりたいことをやった結果だし、何よりも自信を持ってお届けできるアルバムになって良かったなって。このアルバムでもっと密に繋がっていけたらいいなって思いますね。聴いている人と私がもっと近付ける、そのきっかけとしてこのアルバムがあると思っているので」。

 

PROFILE/阿部真央

90年生まれ、大分出身のシンガー・ソングライター。中学生の頃に歌手をめざしてオーディションに参加するようになる。高校入学後にギターを始め、高校2年生の時に〈YAMAHA TEENS' MUSIC FESTIVAL〉の大分大会で優勝。同全国大会では奨励賞を受賞して注目を集める。高校卒業後、2008年に上京。各地のライヴハウスで活動を開始する。2009年1月にファースト・アルバム『ふりぃ』をリリース。その後『伝えたいこと/I wanna see you』“貴方の恋人になりたいのです”とシングルを発表。夏は〈ROCK IN JAPAN〉など大型フェスにも出演して話題となる。今年に入ってニュー・シングル“いつの日も”と、続けてニュー・アルバム『ポっぷ』(ポニーキャニオン)をリリースしたばかり。

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掲載: 2010年01月27日 18:01

更新: 2010年02月03日 18:37

ソース: bounce 317号 (2009年12月25日発行)

インタヴュー・文/森 朋之