アナログフィッシュ 『Life Goes On』 ロング・レヴュー
仕事柄、さまざまな場所でさまざまな音楽を聴くが、無意識のうちに涙を零していてわれながら驚くことがある。心の準備ができていない状態で、到底素通りできない言葉とメロディーに出くわしてしまった時の動揺といったら、ない。昨年で言えば、discharming man『dis is oal of me』(個人的には、日本のエモーショナル・ロックの最高峰だと思っている)がそんな作品だった。そして、久方ぶりに同様の現象が起きたアルバムこそ、アナログフィッシュの新作『Life Goes On』である。
病気療養のためにドラムスの斉藤州一郎が離脱したのち、2人体制で発表した2008年作『Fish My Life』はアグレッシヴなポップ・アルバムだったが、その中盤に“Sayonara 90's”というひたすらに前方だけを見据えたアンセムがある。そして、斉藤の復帰を経て完成した本作では、〈その先〉がよりタフに、より高らかに鳴らされている。
前作から今作までの彼らの道程にドラマを見い出すことは容易であるが、ここではただ「おかえりなさい」とだけ触れておきたい。なぜなら斉藤不在の前作も、本作中の斉藤とは別のドラマーと制作した5曲も素晴らしく良い出来で、どちらもまぎれもないアナログフィッシュのサウンドだからだ。
荘厳なプログラミングで〈二度とない今日/戻らない昨日〉と繰り返す日常風景を一瞬で極彩色のサウンドスケープに塗り替える“NOW”、サビのド派手なコーラスワークに胸がときめく“Light Bright”、IDMとオルタナティヴ・ロックが密やかに交錯する“平行”、なりふり構わず言葉を紡ぐ様がいなたくも格好良いトーキング・ブルース“Ready Steady Go”など、相も変わらず捨て曲がまったく見当たらない全10曲。ひねくれた個性を美しく響かせるサウンドは、筆者を含め、これまでの作品を聴き続けてきたリスナーの期待を裏切らないものだ。ただ、歌詞は違う。彼らは今回、通り過ぎてゆく〈いま〉に対する慈しみと、どこまでも続く〈これから〉に対する希望を威風堂々と歌っている。例えば“ハッピーエンド”で、例えば“Tomorrow”で、例えば“ハローグッバイ”で、例えば“Life goes on”で。聴き手を無責任に鼓舞することなく、地に足が着いた言葉で、ありったけの熱量を込めて。
斉藤の発言から察するに、彼はバンドに戻る目途はなくともドラムの練習は続けていたのだろうし、そんな彼の状況を知らずとも、バンドは斉藤を求めた。そのタイミングがうまく合ってくれて良かったと思う。そしてだからこそ、筆者は〈LIFE GOES ON!〉と3人で発する言葉の説得力に負けたのだ。
先に語ったように、体制がどうであろうが彼らはいつだってアナログフィッシュだった。だがバンドの状態は、おそらくいまが最強である。3人で作り上げた音楽をまた聴くことができて、本当に嬉しい。結局いちばん言いたいことはそれか、という感じだけれど。
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