インタビュー

"E"qual 『SWORDFISH』

 

ますます精力的に活動する名古屋はM.O.S.A.D.の雄。自分自身の現在地を映し出した新作はさらにオリジナルに、もっと丸裸に!

 

 

個性たっぷりな前作からの系譜を継いだ3枚目のフル・アルバム『SWORDFISH』で、"E"qualはさらなる進化を遂げている。強度の高いヒップホップでありながらロッキッシュな空気も感じさせ、かつそれとはまた別のエッセンスまでをも採り入れたクロスオーヴァーで幅広い作風――そのうえ、彼は毎回違う引き出しを開けてくる。かなりのバランス感覚が要求されるところだが、これが"E"qualのオリジナリティーだ。

「ロックも好きだから、ソロでやる時はどうしてもそういう色が出る。自分ではもっとロックしてもいいかなって思ってるし。まあ、個性として考えてるよ。感覚的にやってるから、意識してるワケじゃないけどね。カッコイイなって思ってるのがそういうのっていうだけ」。

本作での彼に過去との違いを感じるのは、ビートメイカーによるところもあるだろう。感覚だけを頼りに独学でモノにしてきたビートメイクのスキルは本職のトラックメイカーにも引けを取らない高水準だが、今回みずから組み上げたビートは必要最小限。その代わりにBACHLOGICやBUZZER BEATS、dee.cなどといった外部プロデューサーを積極的に起用している。

「ひとりのトラックメイカーでやるのももちろんいいけど、やっぱりその人の色は出る。俺のトラックだけでも俺の色ばっかりが出ちゃうし。その色とはまったく違うものを出したかった。幸運にもみんなが格好良いトラックをくれたから選ぶのにも困らなかったし」。

筆者がそんな本作の肝だと考えているのは、BACHLOGICが手掛ける“Not Professional”。「靴もかかと踏みたいし、ジーンズもボロボロを履きたい」と語る、あまのじゃくな"E"qualらしい表現方法で問題を提起したリリックが衝撃的ですらある同曲が、今回のアルバムの本質を象徴しているからだ。

「あれはフラストレーションを吐き出したかっただけ」とする昨年のミニ・アルバム『DOPE BOY』で濃厚なストリート臭を漂わせていた"E"qualは、それとはまた異質な新作にも形を変えて存在している。不満の捌け口だったのが『DOPE BOY』なら、『SWORDFISH』にはあくまでポジティヴにそれを昇華させた答えが〈正直に〉詰め込まれているのだ。そこに嘘はない。

「歌詞を書く時に、思ってないことは書けない。逆に思ってるからこそスラスラ書ける」。

過去の"E"qualとの違いを生み出し、本作を一層味わい深いものとして仕上げているのは、飾らずさらけ出した悩みや葛藤、怒り……弱さと強さが共存したそんな人間味なのである。

 

▼"E"qualの作品を一部紹介。

左から、2007年作『King & Queen』(HARLEM/コロムビア)、2008年作『TV Crushman & Radio Jacker』、ベスト盤『GIANTfootSTEPS ver."E"』、2009年のミニ・アルバム『DOPE BOY』(すべてtearbridge)

 

▼関連作を紹介。

左から、『SWORDFISH』に参加したMay J.のニュー・アルバム『for you』(rhythm zone)、HI-Dの2009年作『It's Not Over』(tearbridge)、"E"qualが客演した山口リサのニュー・アルバム『Explosions』(plusGROUND)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年03月11日 20:00

更新: 2010年03月11日 20:32

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

文・インタヴュー/吉橋和宏