JASON DERULO『Jason Derulo』
デビュー・シングル“Whatcha Say”が全米No.1に輝き、〈浮気してゴメン〉という詞がタイガー・ウッズ騒動にも乗じて話題となったジェイソン・デルーロ。ジョナサン“JR”ロテムの主宰するベルーガ・ハイツのアーティストとしては、ショーン・キングストンに続く華々しい成功だ。
「“Whatcha Say”の詞は、実は兄貴の経験談なんだ(笑)。兄貴が〈浮気しちまって、どうしたらいいかわからない〉って泣きついてくるから、〈自分の過ちを認めるんだ。跪いて謝りなよ〉ってアドヴァイスした。こういう話って、皆も経験してるだろ?」。
何とも情けない兄貴だが……マイアミに生まれ、その兄の好きなR&B/ヒップホップや母親が大ファンだったというマドンナを聴いて育ってきたジェイソン。「ジャズ、ロック、カントリー……俺は音楽そのものに惹き付けられたから、どのジャンルでも聴くよ」という偏見のなさは、89年生まれという若さならでは。音楽への目覚めも早く、マイケル・ジャクソンのコンサートをTVで観た5歳の時にアーティストになりたいと決意したそうだ。それからはパフォーミング・アーツの学校に通って、クラシック音楽やバレエ、タップダンスや演技も学んだという。本人も「デビューしていきなり1位になったようだけど、俺は5歳から歌とダンスを始め、8歳から曲を書いているから、音楽に関わってきた期間は長いんだ」と自負するように、早熟な才能は他のアーティストに曲を書くことで以前から発揮されてきた。
そして、ソングライターを探していたJRに見い出され、ヴィジュアルも気に入られてアーティスト契約するに至る。こうして生まれたのが“Whatcha Say”だ。同曲はイモージェン・ヒープ“Hide And Seek”の大胆なサンプリングで話題になった。
「俺は本当の音楽好きだから、自分を教育するためにいろんな種類の音楽を聴くんだ。だから、レコードショップに行って無作為にCDをピックアップすることも多いのさ。ある日、店頭でジャケが目を引いたアルバムを買ってみた。中身を聴いてみたら“Hide And Seek”に魅了されてしまったんだ。JRも大好きな曲だったから、〈ここから何か作ってみよう〉って話になったのさ。魔法のような曲が出来たよ」。
シンプルに『Jason Derulo』と題されたアルバムには、その“Whatcha Say”や次のシングル“In My Head”はもちろん、昨今のエレクトロ系R&Bよりもさらにポップな感触の楽曲が並んでいる。メロディーが「フラッシュダンス」に激似のトランス・ポップ“The Sky's The Limit”なんてペット・ショップ・ボーイズがやっても違和感がなさそうだし、全体的にエイコンやレッドワンが作るタイプの曲をもっと爽快にしたような雰囲気と言えそうだ。
「ほとんどの曲を俺が一人で書いてる。プロデューサーはJRだけで、ゲストもいない。あくまでもジェイソン・デルーロのアルバムだし、最初は皆に俺のことを知ってほしかった。“Whatcha Say”の二番煎じは作りたくなかったから、それぞれの曲が違った趣のある新鮮なものになってるよ」。
アコギをループした“Fallen”や“Love Hangover”にはポップ・カントリー風の親しみやすさもあって、アレンジの幅は確かに広い。例えるなら、全曲をバックストリート・ボーイズが歌い直してアルバムを作ってもハマりそうなほど。ただ、それをこの将来有望なシンガー・ソングライターが作り、歌っていることに意味がある。
ちなみに世界中で爆発的なリングトーン(着うた)ヒットにもなっている彼の曲だが、本人は「リングトーンは何も使ってないんだよね。いつも音楽を聴きまくってるから、電話の着信まで音楽じゃなくていいかなって(笑)」って……オイ。でも、そんな率直さにも好感が持てるジェイソン君なのでした。
PROFILE/ジェイソン・デルーロ
89年生まれ、マイアミ出身のシンガー・ソングライター。幼少期から歌とダンスに親しみ、やがて作曲を始める。2006年にTV番組「Showtime At The Apollo」に出場してシーズン・チャンピオンの座を獲得する。2007年にはピットブル“My Life”、バードマン“Bossy”にソングライトと歌で関わり、以降もドニー・クラングらに楽曲を提供。その後ジョナサン“JR”ロテムが主宰するベルーガ・ハイツと契約を果たし、2009年8月に発表したデビュー・シングル“Whatcha Say”が全米1位になる。自身の“In My Heart”やアイヤズに書いた“Replay”も連続ヒットとなるなか、ファースト・アルバム『Jason Derulo』(Beluga Heights/Warner Bros./ワーナー)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年03月18日 19:00
更新: 2010年03月18日 19:00
ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)
構成・文/高橋玲子