インタビュー

JOHN BUTLER TRIO 『April Uprising』

 

 

その圧倒的なギター・テクニックと、大地の鼓動を感じさせるオーガニックなグルーヴで、ここ日本でも多くの人々を魅了しているジョン・バトラー・トリオ(以下JBT)。いままで彼らの音楽は〈サーフ系〉と括られることも多かったが、このたび完成したニュー・アルバム『April Uprising』は、そんなバンドのイメージを良い意味で覆す内容になっていると思う。ジョンはトレードマークだったドレッドヘアーをバッサリ切り、またドラマーを3作目『Sunrise Over Sea』に参加していたニッキー・ボンバに、またベーシストをバイロン・ルイターズに変更。心機一転してアルバム制作に臨んでいる。

「前作のツアーを終えた時に、衝動的に〈バンドとして何かが足りない〉〈欠けているものがある〉と思ったんだ。俺はその直感を信じて、いろんなアーティストとセッションを重ねていった。結果、ニッキーとバイロンに辿り着いたんだよ。ふたりとセッションをした時、光が見えたんだ。瞬時に彼らと音楽を作りたいと思って、今回メンバー・チェンジをしたのさ」(ジョン・バトラー:以下同)。

これまでのJBTサウンドと言えば、ライヴ感のあるサウンドというイメージであったが、今回はアルバムだからこそ表現できる(聴かせられる)音を構築しているような気がした。特にリード・トラックになっている“One Way Road”は、ヒップホップの持つサンプリング・ループの感覚をバンド・サウンドに見事に投影させたような曲展開になっており、これまでのJBTサウンドにはないスリルや興奮を味わえるはず。

「これはダンスホール・レゲエからルーツ・ロックまで、いままで俺が影響を受けてきた音楽を、集約/凝縮したようなものなんだ」。

また、この曲を含むすべてに、キャッチーなメロディーやフレーズがあるのも、新作のポイント。一昨年の来日公演の際にジョンは「ジャスティン・ティンバーレイクやブリトニー・スピアーズといったポップスに興味がある」と語っていたのだが、その影響もふんだんに散りばめられている感じがした。

「とにかくパワフルで、リズムが強く出て、〈歌〉にしっかりと集中したアルバムにしたかった。いくら派手な演奏やジャムを展開しても、曲自体が力強くないと意味がないと思ったんだ。だから余分なものは削り落として、全部キラー・チューンになるよう意識したよ。実際に達成できたと感じてるから、凄く誇りに思っているんだ」。

他にも、AC/DCを彷彿とさせるようなハードなギター・サウンドや、サブライムを連想させる開放的なレゲエ・ロックなども展開。幅広いリスナーが楽しめる要素がある仕上がりになっている。しかし、JBTとジョンの真骨頂である超絶ギター・プレイや、人間のルーツを感じさせる力強くナチュラルなサウンド、世界をより良いものにしたいというジョンの真摯なメッセージも健在。いや、音世界を幅広くキャッチーにしたことによって、それらの魅力はよりストレートに心に響いてくる感じがした。

「実はオーストラリアのTV番組に出演した際、俺の祖先は、19世紀にブルガリアで起こった〈4月蜂起(April Uprising)〉において重要な役割を果たしていたことを聞かされたんだ。それに刺激を受けたし、また自分には新しい家族が誕生したことで、ミュージシャンとして、ひとりの男として新しい責任感が生まれたんだ。人に何かを伝え、残す立場として、どういうメッセージを伝えるべきかってね。このアルバムでは、人々や社会に本当の自由や幸せとは何かを、ちょっと風変わりでクールなバンド・サウンドで伝えられたと思うんだ」。

今年の〈フジロック〉への出演が決定したJBT。そこでも、より自由にパワフルになった彼らのサウンドとメッセージを堪能できそうだ。

 

PROFILE/ジョン・バトラー・トリオ

ジョン・バトラー(ヴォーカル/ギター)の率いるオーストラリアのバンド。95年に結成され、自主制作のカセットテープ『Searching For Heritage』をきっかけにして地元レーベルと契約。メンバー交代を重ねながら着実に支持を広げ、〈ボナルー〉など海外のフェスにも進出していく。ジョンの夫人の兄でもあるニッキー・ボンバ(ドラムス)らを従えた2004年の3作目『Sunrise Over Sea』は全豪/全米チャートで1位を獲得。ニッキーの離脱を経て、翌年には〈フジロック〉で初来日を果たす。2009年にレイ・マン・スリーのバイロン・ルイターズ(ベース)とニッキーを加えた現在の編成となり、このたび通算5作目となるニュー・アルバム『April Uprising』(Jarrah/Pヴァイン)をリリースしたばかり。

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掲載: 2010年03月24日 17:58

更新: 2010年03月24日 18:05

ソース: bounce 319号 (2010年3月25日発行)

インタヴュー・文/松永尚久