インタビュー

Altan

「伝統音楽のメロディがいかに美しいか改めて感じた」

チーフテンズと共にアイリッシュ・トラッド・シーンを牽引してきたアルタン。ドニゴールというローカル性にこだわったプリミティヴな表現を持ち味としてきた彼らだが、新作はなんと、アイルランド国営放送局専属のフル・オーケストラとガップリ組んだ大掛かりなものになっている。そもそも、オケとの共演を初めて思いついたのは、ずいぶん昔のことだったとリーダーにしてフィドル/ヴォーカル担当のマレート・ニ・ウィニーは言う。

「まだ10代の頃(つまり70年代)、サンディ・デニーの『Like An Old Fashioned Waltz』というオケ入りアルバムを聴いた時、オーケストラに対するフォークの歌声ってのはすごくいいアイディアだと思ったの」

で、実際『Blackwater』(96年)や『Another Sky』(00年)といった過去のアルバムで小編成の弦を入れて地ならしをし、ようやく今回のフル・オケ導入となったわけだ。豪華なサウンドだが、それが逆にアルタンの伝統音楽バンドとしての純粋さやコアな部分を浮き立たせる結果となっている。ファンにはお馴染みのレパートリーの再演ではあっても、新たなアレンジによってどの曲も新鮮に響き、一気に聴かせてしまうのだ。

「私自身、すごく新鮮な感覚を覚えた。2日間で全曲録音という迅速な流れも更に音楽の新鮮さを増すことになったと思う。すべて一発録りだし、本当に集中して、リハ、本番、ハイOK、みたいな感じだったの」

そして、本作の成功の最大の鍵はなんといっても、オケのアレンジャーにフィアクラ・トレンチを起用したことだろう。ヴァン・モリスンやポーグス他、たくさんのロック/ポップス系作品のアレンジをしてきた名匠だ。

「彼は、元々歌が持っている空気を壊さず、自然に呼吸させてくれるの。それに元々アルタンのファンで、ライヴにも何度か来てくれたこともあって。彼なら私たちの考え方を理解して、望むものを作ってくれると思った」

阿吽の呼吸というやつか。両者のミーティングもたった1回だけだったという。

「彼の感性を本当に信頼していたから、特に何も注文しなかったしね。バンドの個性を理解してくれてそれを強調するようなアレンジになったし、私たちの演奏や歌い方を変える必要もなかった」

本人たちも大満足といった感じだが、最大の成果は、自分たちがやってきた音楽の素晴らしさを再確認できたことだったようだ。

「普段アルタンのCDはあまり聴き返さないんだけど、今回の作業を通じて、自分たちの伝統音楽のメロディがいかに美しいものなのか、改めて感じた。私たちがどれだけ豊かな音楽遺産を持っているのか、ということを再認識したの。本当にいい音楽をやってきたのよね(笑)」

アルタンは、この新作を携えて、今年は世界各地でオケとの共演ライヴを展開する予定になっている。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年04月19日 16:37

更新: 2010年04月19日 16:46

ソース: intoxicate vol.84 (2010年2月20日発行)

interview & text : 松山晋也