インタビュー

Satoru Ono 『Tales From Cross Valley』

 

スコットランド人プロデューサーとの二人三脚で完成した新作。温もりたっぷりの音に包まれた、とある村の物語に耳を傾けて

 

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ブリティッシュ・ビートからスコティッシュ・ポップまで、UKのロック史を一望できてしまうようなベーシックは変わりない。けれど、その聴こえ方は当然、録音や制作方法によって異なってくるわけで――宅録/バンド録音の違いこそあれ、過去2作品では自身のイメージを音として忠実に再現してきたSatoru Onoが、3作目『Tales From Cross Valley』に課したコンセプトは「(自分以外の)人から出てくるものを上手く消化する」ということ。そこでプロデューサーとして白羽の矢が立った人物が、ライラック・タイムなどのエンジニアとして知られるデヴィッド・ノートンだ。

「スティーヴン・ダフィの歌を録った人とやれるというのは嬉しかったですね。ああいう音になる秘訣はあるのかな、とか思ってたんですけど……ひとつひとつ丁寧に録ってるだけでした(笑)。作りはじめた時は、どういう音にしたいというよりデヴィッドから何が出てくるかな、っていうのが大きかったかもしれないです。デモも、彼の色を入れられる余白を残して作り込まずに出すようにしてたんで。そうすると結構曲の構成とかキーとか変えられたりして(笑)、そういうやり取りが新鮮でしたね」。

そうしてデヴィッドの色が入り込んだ楽曲は、どこか90年代のUK/USインディー・シーン――とりわけグラスゴー周辺のネオアコやギター・ポップ、パワー・ポップ・バンドが内包していたような甘酸っぱいメランコリーやスパークリングな煌めき、自然体のヒューマニティーを纏うこととなった。

「おもしろいなって思ったのは、デヴィッドが“Meet The Tiger”の曲調にキンクスの影を感じたらしくて、スタジオで物凄くキンクスを聴かされて……で、次に会った時にはアレンジがもう出来てました(笑)。あと“Tailor”ではベル&セバスチャンを聴かされて、〈この打ち込みをやったのは俺なんだけども、こういう感じにするのはどうか〉みたいなことを言われて、〈ああ、ハイ〉って(笑)。“Old Rose Stout Union”もデモの時はもっとギターを歪ませて、ギャンギャンうるさい感じのロックに作っていったんですけど、結構クリーン・トーンに、ペロッとした音にされて(笑)。そのへんの音のチョイスがちょっとスコットランド人っぽいな、って感じましたね。過剰に歪ませたりせず、ちょっとナチュラルで温かみのあるトーンは残すっていう」。

曲ごとに異なる主人公たちが暮らす架空の街=〈Cross Valley〉をタイトルに冠した本作には、他にもニック・ダフィ(ライラック・タイム)や小俣史恵(メトロオンゲン)、同郷・京都の男女デュオであるnighttellerがゲストとして名を連ねている。個性豊かな楽曲群を包み込む上述の統一したムードは、もしかしたら彼を取り巻くコミュニティーの温度感なのかもしれない。交錯する多くの人々の血が通った、温もり溢れるポップ・アルバムがここにある。

 

▼関連盤を紹介。

左から、スティーヴン・ダフィー&ザ・ライラック・ライムの2007年作『Runout Groove』(Fruitcake)、メトロオンゲンの2007年作『In the whale』(stereoglider/OWL WORKS)

 

▼Satoru Onoの作品を紹介。

左から、2005年作『FRANKENSTEIN』、2007年作『THE DAYS OF PARKY PAT』(共にSECOND ROYAL)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年04月20日 18:00

更新: 2010年04月20日 18:06

ソース: bounce 319号 (2010年3月25日発行)

インタヴュー・文/土田真弓