Daniel Bernard Roumain
「重要なことは、常に自分の声を忘れないこと」
元々クラシック系のプレイヤーがポップ・ミュージックもこなす、あるいはどちらでもない新しい表現を目指すというのは、この時代、特段珍しいことではない。いや、i-PodやYouTubeやMySpaceを自由に使いこなす世代の感覚としては、それこそが自然だろう。ピアノだと、ジェフ・ミルズ他のテクノ・チューンをカヴァするフランチェスコ・トリスターノが最近では注目を集めているわけだが、ヴァイオリンなら、この男だろうか。
ダニエル・バーナード・ロメインの名を僕が初めて目にしたのは、【Thirsty Ear】からのDJスプーキーのアルバム『Optometry』だったから、もう8年前である。前後して出たマシュー・シップの『Equilibrium』にもやはりこの男の名はクレジットされていたはずだ。それらの演奏から受けた、ミニマリズム等の現代音楽や電子音楽、ヒップホップが好きなクラシック・ヴァイオリニストというイメージは、今回国内盤としてリリースされる(米本国では07年に発売)『バイオリンとエレクトロニクスのためのエチュード』でも、再確認できる。
1971年、ハイチ系移民の家庭に生まれたダニエルは、5才でクラシック・ヴァイオリンを習いだしたが、ポップ・ミュージックにも早くから親しみ、既に10代で地元マイアミの2ライヴ・クルーなどと一緒に演奏していたという。その後ニューヨークに移ってからは、ロック・バンドからDJまで、共演の幅は益々広がり、最近ではレディ・ガガとも共演した。もちろんそれらと並行し、現代音楽の作曲家として、あるいはダンス・カンパニーの音楽監督としても活躍している。最も大きなインパクトを受けた作品は?との問いに返ってきたのは「プリンスの『Purple Rain』とビョークの『Vespertine』」。「どんな音もポップ・ミュージックになり得るということを学んだ」という。
そして『バイオリンとエレクトロニクスのためのエチュード』。ロマンティックな旋律とミニマルなリズムとDJマナーが一体化したこの作品は、盟友DJスプーキー、DJサイエンティフィック、ピーター・ゴードン、坂本龍一、フィリップ・グラスといった参加メンバーからして、彼のキャリアと嗜好がダイレクトに反映されている。「グラスは、以前私のコンサートに来てくれたのがきっかけで、友人としてつきあっている。坂本とは、DJスプーキーのコンサートで会ったんだ。彼らからは、音楽創造に関して大きな影響も受けたよ」
そして、自身の表現の軸になっている折衷主義について、こう強調する。「重要なことは、常に自分の声を失わないこと、これ1点につきると思う。たとえ他人の舌で話さざるを得ない状態でも、自らの言葉を忘れないように、ということだ」
今年発売予定の新作『Woodbox Beats&Balladry』は、「これまでの私の作品中で最もダンサブルかつリリカルなもの」らしい。