サンボマスター 『きみのためにつよくなりたい』
結成前夜のようなワクワクを詰め込んだニュー・アルバム『きみのためにつよくなりたい』と書いて、2010年代的ロックンロールと読む!
〈新しき日本語ロック〉というプラカードを掲げ、爆発的なライヴ・パフォーマンスで2000年代を突き進んできたサンボマスター。そんな彼らが2010年代を迎え、2年3か月ぶりにリリースするニュー・アルバム『きみのためにつよくなりたい』は、いままでとは確実に違う〈彼ららしさ〉を感じさせる作品だ。
「時代を跨いだし、前の焼き直しじゃなくもう1回新しいものをやらなきゃいけないって思いが強かったですね。今回は机にMac置いて、機材買って、スタジオに3人だけで4か月くらいこもって曲作りしたんです」(山口隆、ヴォーカル/ギター)。
「MIDI組んだり、サンプラー使ったり……とにかく池袋の某家電量販店にはよく行きましたね。とにかく、今回はタブーなしでやろうと思いました」(近藤洋一、ベース)。
「新しいオモチャを手に入れてすごく楽しんで作れた。その感情が音に出せてるのが良かったですね。曲作りは完全に3人だけだったから、アレンジも何も気を遣わずいろいろ試せたし、3ピースのバンドって形にこだわらず欲求のままに作りましたね」(木内泰史、ドラムス)。
彼ららしいロックンロール・チューンばかりでなく、ギターなしのメロディアスなバラード“ラブソング”を筆頭に新たな局面を披露していく今作。スカやダブを導入した“世界をかえさえておくれよ”、シンセ・ポップ的な“スローなディスコにしてくれ”など、テクノロジーと握手した音遊びも満載。そんなアルバムの隅々に散りばめられているのは、新たな初期衝動感だ。
「初期衝動っていうと勢いとか暴走みたいな意味にも捉えられるけど、違うんですよね。僕らはロックンロールの〈なかったこと〉をありにしたかったんですよ」(山口)。
彼らの変化は音だけに止まらない。歌詞の全体的な雰囲気からは、かつてないほどのセンチメンタルさや優しさが感じられる。
「世界中で〈窓の開け方〉が違うなっていうのをひしひしと感じるんです。ライヴでのサークル・モッシュにしても、前は殺気立ってたけどいまはみんな輪になる感じだし。オレはそれがすごくいいなと思うんです。そういう感じが歌詞に反映されたのかな」(山口)。
さらには、生と死をテーマにした曲も多く見られる。
「この2年半ぐらいの間に、生き別れ死に別れもいっぱいありましたね。〈この人がいるから安心して下級生でいられる〉って人が亡くなっちゃいましたから」という山口だが、ロックンロールのバトンを渡されたバンドの1組として、悲しみに暮れているばかりではいられない。
「やっぱり、それを暗い感じで言いたくなかったんです。2010年なんだし。自分は自分のできることをやる。2人の知恵を借りれば新しいことができるって気持ちでやりましたよ」(山口)。
アルバムを締め括るダイナミックなロック・チューン“新しく光れ”のラストに響く〈新しく光ってくれよ!〉という言葉は、混沌とした世の中に向けて放たれた彼らからのメッセージ。『きみのためにつよくなりたい』はまさに、ひとつの時代へのレクイエムであり、これからの時代を創造していこうとするエナジーに満ち溢れた、新たなサンボマスターの出発を告げる作品なのである。
「2000年代は難しいと思われるような言葉とかどんどん言ってきたけど、それよりもこうやってロックンロールをやるのがいちばんなんだなって思いましたね。僕らは、なんじゃこりゃってものを見続けたいからこういうアルバムを作った。そのほうが楽しいし、そういう雰囲気を肌で感じてるならやったほうがいいなって」(山口)。
「今年結成10周年で、知らない間に自分らを見えないルールで縛ってきたなって。そういうの関係なく作れたのが良かった。なので、5枚目だけど結成前夜みたいな、ファーストの時よりもバンドを組む前の感じがするアルバムなんですよ」(近藤)。
「ホントそういう感じで作れたし、オレらのやりたいことをやり切ったアルバムです。ロックンロールはこれでいいはずだと思ってたけど、この間ボブ・ディランを観にいって、さらにそれを確信しましたね(笑)」(木内)。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年05月14日 15:40
更新: 2010年05月14日 15:45
ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)
インタヴュー・文/土屋恵介