NIKKI YANOFSKY 『Nikki Yanofsky』
ヴァンクーヴァー五輪の開会式でカナダ国歌“O Canada”を溌剌と歌った、赤いミニドレスのシンガーを覚えていらっしゃるだろうか。それが16歳のニッキー・ヤノフスキーだ。五輪の国歌といえば大物歌手が仰々しく歌うケースが多いが、カナダはこの新星に白羽の矢を立てた。ニッキー自身は、選ばれたことについて「すごく光栄。カナダ人であることに誇りが持てた」と語り、当日は「舞台に立つ直前までは全世界32億人が観ていると思うと緊張したけれど、歌いはじめると緊張感は消え去り、爽快な気持ちになった。私は歌うために生まれてきたんだと再確認することができた」と言う。ちなみに彼女は閉会式にも出演し、五輪のために書かれた曲“Let's Have A Party”をデュエットで披露していた。
その五輪からおよそ3か月が経つが、いまなおフィギュアスケートなどの興奮の余韻が残る良いタイミングで、彼女のニュー・アルバム『Nikki Yanofsky』がリリースされる。この作品で世界デビューとなるニッキーだが、実はジャズ・ファンの間ではすでに有名な存在でもあった。13歳の時にライヴ収録したアルバム『Ella... Of Thee I Swing』が2008年にリリースされているからだ。ジャズ界にいまも名声を轟かせる偉大な歌手、エラ・フィッツジェラルドのレパートリーをビッグバンドとの共演で堂々とライヴで熱唱した彼女は、その本物の実力で高く評価された。同作が日本盤化された昨年、ニッキーはプロモ来日も敢行しているが、その際に「制作中の世界デビュー作は、ジャズもオリジナルも収録したヴァラエティーに富んだ内容になるはず」と話してくれていたものだ。
『Nikki Yanofsky』のコンセプトは、「私の原点であるジャズと、そこから刺激を受けて生まれたオリジナル曲の両方を、世界中の人たちに聴いてもらうこと」。まず原点となるジャズは前作同様にビッグバンドとの共演で、大物プロデューサーであるフィル・ラモーンの指揮のもと、“Take The 'A' Train”や“I Got Rhythm”などのスタンダードを熱唱。ジャズを歌うとニッキーのヴォーカルは艶やかさを増し、〈大人顔負け〉という表現が陳腐に思えるほど、音楽に年齢は関係ないと痛感させられるはずだ。ここでは他にもビリー・ホリデイの“God Bless The Child”がブルージーに歌い上げられている。
一方、オリジナル曲ではナチュラルなヴォーカルの魅力を発揮。先行シングルになった“For Another Day”をはじめ、共作者/プロデューサーとして貢献しているのがジェシー・ハリスだ。
「(ノラ・ジョーンズの)“Don't Know Why”が好きだから、ジェシーに〈共作してほしい〉と手紙を書いたの。でも当時はまだ無名だったから最初は返事がなくて、その後私の公演を観に来てくれたことで実現した。“For Another Day”は、ジェシーとカナダ出身のロン・セクススミスと3人で、私の家の地下室である夏の日に共作したの。小さな種のようなアイデアから美しいテーマが生まれ、それが曲になっていく過程は感動的だったわ」。
その2人とは“Cool My Heels”と“Bienvenue Dans Ma Vie”も共作。フランス語圏であるモントリオール出身のニッキーは、スウィンギーな後者を英語とフランス語の両方で歌っている。他に同じカナダ出身のファイストが書いた“Try Try Try”も取り上げていたり、サウンドからリズム、ヴォーカルまで異なるポップスとジャズが1枚のアルバムに違和感なく収録されていて、ニッキーの表現力豊かな歌を満喫できる。それがこのアルバムの素晴らしいところだが、その難しい編成に貢献したのがフィル・ラモーンだ。とはいえ、大ヴェテランの知識と経験に期待して彼を指名したのはニッキー自身。その確かな目にも天性の才能を感じずにはいられない。
PROFILE/ニッキー・ヤノフスキー
94年生まれ、カナダはモントリオール出身のシンガー・ソングライター。幼い頃からジャズに親しみ、2007年にエラ・フィッツジェラルドのトリビュート盤『We All Love Ella』に参加。2008年にファースト・アルバム『Ella... Of Thee I Swing』をリリースし、ジュノ・アワードに史上最年少でノミネートされて脚光を浴びる。今年に入って、2月にヴァンクーヴァー五輪の開会式におけるカナダ国歌のパフォーマンスで話題となる。CTV五輪キャンペーン・ソングに選ばれた“I Believe”が本国のチャートで1位を獲得。さらなる注目を集めるなか、このたび初のワールドワイド作品となるニュー・アルバム『Nikki』(Decca/ユニバーサル)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年05月14日 15:30
更新: 2010年05月14日 15:37
ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)
インタヴュー・文/服部のり子