インタビュー

Saori@destiny 『WORLD WILD 2010』

 

またも圧倒的な完成度と神々しいまでのユニークを湛えて、2010年代最初の名盤が登場。これからはワイルドで行くぞ!!

 

saori@destiny -A

『WORLD WILD 2010』が素晴らしい。メチャクチャ良い。〈神曲たち〉という言葉が相応しいのは、こういうアルバムのことじゃないですか。いや、何かを揶揄したいわけではなく、Saori@destinyの出す曲はほとんど、アルバムの隅々に至るまでハズレのない曲だらけ、というのは処女作『JAPANESE CHAOS』が出た時点で定説になっていますからね。昨年のミニ・アルバム『WOW WAR TECHNO』にも歌詞や声の良さに対する好リアクションが多かったそうで、S@d本人も「自分の良い部分を自分自身で初めて理解できました」と語っています(……初めて?)。

「前作ぐらいから、プロデューサーのTerukadoさんやスタッフを含めて、〈Saori@destinyではどのような作品を作っていくのか〉みたいなことについて統一の目標ができてきて。新作はそれがもっと明確になったうえで、作りはじめられたのが大きいですね」。

かくして登場した『WORLD WILD 2010』は、娯楽の殿堂と地上絵が原色で描かれたようないかがわしくも猥雑なジャケに包まれ、アルバムの方向性が〈エスニック〉をテーマにした限定先行シングル“エスニック・プラネット・サバイバル”の延長線上にあることを示唆しているかのよう。〈ワールド〉という直球のテーマに則って柔軟に採用されたゲットー・ビーツが従来のエレクトロ・ワールドをカラフルにアップデート。アレンジの多様化に合わせたヴォーカル・スタイルの変化は、クールなバイレクトロ“Re:revolution”での導入に続くファンキ調の“WORLD WILD 2010”を聴いただけでもわかります。

「バイリ・ファンキみたいな曲は歌ったことがなくて、かなり苦戦しました。“BABY tell me”でも新しいヴォーカル・スタイルに挑戦してるし、今回はいままででいちばんTerukadoさんからいろんなボールが飛んできましたね! 歌唱法に関するボールを打ち返すのが大変で、とにかくリズムとブレスにうるさくて……。あと今回はコーラスワークが増えてきて単純にレコーディングの時間が長くなって……そういうのも含めて大変でした(笑)」。

ある種の飛び道具や八方破れな思い付きのようでいて、緻密なアイデアを凝縮しまくったサウンドからは、今回もどうにかして楽しませようとする意図が感じられます。先入観だけで何も聴いていない人にはわかんないのでしょうが、ストップ&ゴーを繰り返す“Lonely Lonely Lonely”やブヨブヨ轟くベースに導かれてフォルムを変えていく“BABY tell me”、キャッチーで毒のあるエレポップ“ファニー・パレード”“シンパ”など以前とはカラーを異にするダンス・トラックだらけですよ。

「音楽的なことはプロデューサーにお任せするというスタンスは、デビューから変わってませんね。曲で表現しないぶん、歌詞は自分のイメージで書けるので……ただ、それも書き直しになることが多いんですけど(笑)」。

天然さんや病みをウリにした作品も珍しくない昨今、それでもS@dの諦念や虚無を刺してくる詞の不思議な味わいは別格です。特に、厳かなピアノ・ループも相まって絶望的に迫る“グロテスク”の魅力は……どやさ!

「最初は浮気された詞を書いてたんですけど、曲を最後まで聴いたら最後でゾッとして消えるような印象だったので、ストーリー性も出したいし自殺にしようと決めて。浮気の歌詞そのままのとこもあるので、それはどこかな~とか考えてみてください(笑)」。

どこを切ってもドキッとさせられる血が出てくるアルバムで、言葉も音も〈攻め〉を強調するわけでもなくナチュラルに攻めているのが頼もしい! なかでも絶品なのは「どの言葉を使ったら急に切なくなるか、とか練りに練りました。たぶん誰でもリアルに感情移入できて泣けるんじゃないかな~」と語る“I can't”。文字にすると陳腐ですが、切なさがグングン加速するこの感じは聴いてもらうしかないですわ。で、結びにはDJ JETBARONG aka 政所(レオパルドン)が登場し、テーマに相応しく“Lonely Lonely Lonely”を最高にアホで格好良いファンキー・コタに電飾。いや~、メチャクチャ良いアルバムですよ!

 「ありがとうございます! 私も普通にメチャクチャいいな~って思う(笑)。ひとつの到達点になったアルバムだと思うので、たくさんの人に聴いてほしいです」。

 

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掲載: 2010年05月18日 22:40

更新: 2010年05月18日 23:08

ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次