MALACHAI 『Ugly Side Of Love』
知る人ぞ知る存在だったマラカイが、改めてスタートを切った。マラカイは、ヴォーカリストのジーとトラックメイカーのスコットの2人組。最近はビークで注目を集めるポーティスヘッドのジェフ・バーロウらが主宰するインヴェイダから、2007年に“Fading World”でデビュー。その後アイランドからEPをリリースしたものの、ファースト・アルバム『Ugly Side Of Love』はインヴェイダからのリリースとなった。2009年初めに発表されたアルバムは高い評価を得て、ワールドワイドなマーケットを視野にドミノ傘下のダブル・シックスとサイン。名前も〈Malakai〉から〈Malachai〉へと変更。アートワークが新装され、内容も若干ブラッシュアップされた『Ugly Side Of Love』が再リリースとなった。どこかミステリアスな印象もあったブリストルの鬼才ユニットだが、これを機に広く知れ渡ることになるだろう──ジーがプレス向けに答えた発言と共に紹介しよう。
「いわゆる〈ブリストル・シーン〉なんてものはないけれど、この街は音楽を作っている人間だらけだ。だから他の人と違うことをやらなきゃダメ」。
ブリストルといえば、幻想的でダブワイズなエレクトロニックやファンキーなドラムンベースを思い出す人は多いだろうし、最近ではダブステップの拠点の一つとしても知られる。そんなわれわれが勝手に抱くブリストル観をよそに、けったいなブリティッシュ・ポップが『Ugly Side Of Love』からは鳴り響く。
「この業界で一旗あげるなら、武器は自分で選んで、自分の道を貫かないとね。とにかく、同じことを繰り返すことだけは絶対にやりたくなかった」。
アート方面にも造詣が深いというジーの強烈なキャラクターは、マラカイの独特な個性を際立たせている。音楽面を支えるスコットことスコット・ヘンディは、パープル・ペンギンへの参加やアンディ・スミスとのダイナモ・プロダクションズ、ボカ45などで才能を発揮してきた逸材。ダウナーな“Only For You”に参加しているジェフ・バーロウとも共作がある。
「サイケデリック・ミュージックの持つ色合い、純真さ、楽観的なところ、すべてが好きなんだ」。
ブリストルから届く音楽を聴いて〈サイケデリック〉という言葉が思い浮かぶことは少なくないが、彼らの場合、60年代後半のカラフルな時代と直結しているのが新鮮。サンプリングやスクラッチといったディテイルや手法は現在的だが、時折2010年現在の作品なのかと疑いたくなる瞬間もあるほど。キンクスやスモール・フェイセズを思い起こさせるような、いかにもブリティッシュな一癖も二癖もある旋律やアレンジ、歌詞も個性的。ガレージやブルース・ロック、アシッド・フォークにマージー・ビート、ファンク、ダブなど時を超越したあらゆる要素が、ユーモアに溢れるマラカイ流のポップセンスで呑み込まれ、吐き出されている。
「音楽的に自分がどこまでやれるのか、何をやれるのか……そう考えるだけで興奮してくる。いいとこ取りするって意味じゃない。自分をどうフィットさせるのかじゃなくて、それが自分にどうフィットするのか、そのほうが重要なんだよ」。
歴史の悪戯から異なる文化が入り交じる英国。特にウェストサイドの港町ブリストルには、過去も現在もハイブリッドな音楽性を特徴とするアーティストが多い。
「俺たちは、間違った人間に掌握された政府の下で育った世代だと思うよ。でも、これまでの人生のなかで誇りに思えることもたくさんあったし、俺はそれを取り戻したいんだ。確かにこの国にはビートルズやキンクス、デル・ボーイ(BBCの人気コメディー〈Only Fools And Horses〉の主人公)にロースト・ディナーがある。でも、その一方で、スペシャルズやエイジアン・ダブ・ファウンデーション、デズモンズ、〈クマールズ〉(在英インド人の家庭を舞台にしたBBCの番組)もティッカマサラも、この国の持つ偉大な文化なんだ」。
PROFILE/マラカイ
ジー(ヴォーカル)とスコット・ヘンディ(トラックメイク)から成るブリストルの2人組。ボカ45として知られるスコットがジーと出会って結成される。2007年にジェフ・バーロウ(ポーティスヘッド)とファット・ポールの主宰するインヴェイダと契約し、シングル“Fading World”でデビュー。同年にアイランドから『EP 1』をリリースし、翌年公開の映画「Franklyn」に楽曲が使用されて注目を集める。グルーヴ・アルマダやMrハドソンとのツアーを経て、2009年にファースト・アルバム『Ugly Side Of Love』を発表。さらなる話題を呼ぶなかドミノと契約し、このたびファースト・アルバム『Ugly Side Of Love』(Invada/Double Six/Domino/HOSTESS)を新装して再リリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年05月24日 22:15
更新: 2010年05月24日 22:20
ソース: bounce 320号 (2010年4月25日発行)
構成・文/栗原 聰