インタビュー

当真伊都子

夢の中から届けられたような美しいピアノの弾き語り

エレクトロニカという枠を越えてスケール大きな音楽を作り出す高木正勝の作品で、ヴォーカルとして重要な役割を担ってきた当真伊都子。高木との共演に触発されて曲を作り始めたという当真が、少しずつ時間をかけて制作したファースト・アルバム『ドリータイム』が完成した。ほとんどが彼女の自宅でレコーディングされた本作は、ピュアな美しさと暖かな空気に満ちている。

「最初は立派なマイクを立てて〈よし、やるぞ!〉って頑張ってたんですけど、後で聴き直してみると〈あれ、なんかかっこつけてなかったかな?〉と思えてきて(笑)。それで手軽なハンディ・レコーダーに変えたんです。音楽を聴いてくれる人に、控え目なんだけど主張がある寄り添い方をしたいな、と思って」

寄り添う、といえば、彼女の歌声には彼女が弾くピアノが幼馴染みの親友みたいに寄り添っている。その柔らかで表情豊かな音色も印象的だ。

「小さい時からクラシックのピアノを弾いていて、今回、ピアノのタッチや音色はすごく意識しました。クラシックだけじゃなくて、ポール・マッカートニーの暖かくて無骨なピアノも好きで、今回のアルバムでは《sound  of dream》をポールみたいな感じでとか、《dancer》だったらフォーレみたいに和音の変化を際立たせるような弾き方でとか、いろいろ考えてみたんです」

そして、そんなピアノとデュエットするような当真の歌声は、まるで生まれたての歌のようなナチュラルな響きが心地良い。

「大学で声楽も学んでいたので、それっぽく歌えなくもないんですけど、なんだか自分が歌っている気がしなくて。クラシックじゃなくてポップスの世界で歌わせてもらえるんだったら、普通に喋るみたいに、子供に歌って聴かせるみたいに自然に歌ったほうが、いろんなことが伝わるんじゃないかと思ったんです。それに今回、レコーディングの時に入ったノイズをそのまま残しているんですけど、実はそこには息であるとか、間合いであるとか、ピアノと私の声が混じり合って消えている部分であるとか、私が聴いて欲しい大切なものがいっぱい混じっているんです。そういうのも含めて、できるだけ自分らしい音を出したかったんですよね」

静かに耳を傾けることで聞こえてくる、彼女の想いやエモーション。アルバムを聴いていくうちに、彼女の夢の中にゆっくりと入っていくようだ。

「以前、夢の中ですごくキレイな音を聴いたことがあったんですよ。それがどんな音かは説明できないんですけど、それを聴いた時の気持ちはすごく残っていて。歌詞を書いたり曲を作ったりする時って、なんだか夢の中にいるみたいなんですよね」

そして、彼女の歌のゆりかごに揺られて、リスナーは『ドリータイム』という不思議な夢を見るのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年05月26日 20:09

更新: 2010年05月26日 20:16

ソース: intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)

interview & text : 村尾泰郎