Nabowa 『Nabowa』
京都出身の4人組インスト・バンド、Nabowaの奏でるサウンドは開放感に満ちていて、どこか人懐っこい。例えば、彼らと共演したこともあるトミー・ゲレロが都会的なクールネスを感じさせるとしたら、Nabowaは日向の縁側を感じさせる和みのグルーヴ、というか。でも、そんな従来のイメージから一歩踏み出したのが2枚目のフル・アルバム『Nabowa』だ。
「今回は初めて録音も自分たちでやったんです。ドラム・セットの横にパソコンやミキサーを置いて、自分でスタート・ボタンを押してドラムを叩いたり。これまではエンジニアに任せていたんですけど、やっぱり録り方で曲の印象が変わったりするし、一から自分たちで責任持ってアルバムを作っていきたいと思ったんです」(川上優)。
その結果、曲によってはダビーなエフェクトが加えられて、ポスト・ロック的な風情がサウンドに奥行きを与えている。さらに今回はこれまでの〈その場のノリ重視〉から一転して、メンバー全員で話し合いながらアイデアを出し合って曲作りに取り組んだという。なかでも元晴(SOIL& "PIMP" SESSIONS)がサックスを吹いた“bandada”をはじめ、随所で顔を出すジャズやヒップホップのフレイヴァーが新鮮だ。
「もともとウチのリズム隊がブラック・ミュージックとかが好きやったんですけど、今回は結構そういう要素を盛り込みました。というのは〈Nabowaってナヨナヨしてる〉みたいな意見があって(笑)。それやったら、新作では〈もっと男っぽく行こうやないか!〉と。それが新作の大きなテーマやったりするんですよね」(景山奏)。
というわけで、これまでとは違ったアプローチで男気たっぷりに作り上げられた本作は、Nabowaにとって新境地。ACOやNAOITO(KINGDOM☆AFROCKS)をゲストに迎えたヴォーカル・ナンバーも、バンドの新たな魅力を引き出している。
「曲を書いた時に浮かんだ風景とか、〈ノスタルジックな感じで〉とか。そういう断片的なイメージを箇条書きにしたものをACOさんに渡して、歌詞を書いて歌ってもらいました。高校の時から好きだった人なんで、もうウキウキでしたね(笑)」(景山)。
「ヴォーカル曲って未知の領域で、ずっとやってみたかったんです。ACOさんからは〈歌ってない人が作るメロディーですごい難しかったよ~〉って言われて(笑)。そういう経験って、すごく大切だなって思いました」(川上)。
ともあれ、これだけ新しいことに挑戦しながらバンドとしての軸がブレていない。それどころか軸がより太くなっているのは、バンドとしての基礎体力があるからこそだ。これまでヴォーカルはなくてもヴァイオリンやギターが歌っていたし、軽やかなタッチとテクニカルな演奏の絶妙なバランス感覚を持つバンド・アンサンブルは今回も際立っている。
「引き算とバランスは大切にしてますね。他のバンドの音を聴いていると〈この音がなかったら良いのに〉とか、ムダな音が気になることが多いんですよ」(川上)。
「僕らはできるだけシンプルにというか、いらないとこはなくていい。でも、エフェクトをかけるとこはガツッとかけるとか。その差をハッキリつけたいというのも今回気をつけたところですね」(景山)。
「メンバー全員、仕上がりをすごく気に入っていて、だからセルフ・タイトルにしたんです」(川上)という。思えばこれまでデパートや結婚式場など、さまざ まな場所で演奏されてきた彼らの音楽は、街や人の間を吹き抜ける風のようだ。そして『Nabowa』から吹く風は、リスナーを縁側から天高くへと運んでく れる。ほんと、良い風吹いてます。
PROFILE/Nabowa
山本啓(ヴァイオリン)、景山奏(ギター)、川上優(ドラムス/ジャンベ)、堀川達(ベース)から成る4人組。2004年に京都で結成。ストリートを中心にデパートや寺院、カフェ、バーなどでライヴ活動を行う。2007年にアナログで『Pole Pole/Continental Landscape』を発表。2008年3月にタワーレコード限定でミニ・アルバム『River』、同年5月にファースト・アルバム『flow』をリリース。その後初の全国ツアーを行う。2009年2月にミニ・アルバム『view』、同年4月にCalmやAltzなどが参加したリミックス盤『Re-flow』を発表。〈SUNSET〉をはじめフェスやイヴェントにも精力的に出演して話題を集めるなか、ニュー・アルバム『Nabowa』(AWDR/LR2)をリリースしたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年06月02日 18:40
更新: 2010年06月02日 22:08
ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)
インタヴュー・文/村尾泰郎