インタビュー

登川誠仁

沖縄民謡界の現役トップスター、気力充実の最新作

登川誠仁、通称〈誠小〉(セイグヮ)。今年で78歳を迎える、現役最高峰の沖縄民謡シンガーである。

本土では、彼のことは1999年に公開された沖縄産映画『ナビィの恋』のオジィ役で初めて知った、という方も多いかもしれない。だが沖縄では、彼は若い時分から押しも押されぬ人気スターだった。7歳頃から歌、三線を始め、16歳のときには当時大人気だった沖縄芝居の劇団に〈地謡(歌と伴奏担当)見習い〉として入団。その後さまざまな劇団で地謡の経験を積み、30代になる頃には早くも沖縄民謡をしょって立つ存在となっていた。以降今までずっと、彼は民謡界の最前線で歌を歌い、歌を作り、歌を広め続けてきたのである。

そんな誠小の最新アルバム『歌ぬ泉』が、前作『酔虎自在』から約2年ぶりに発売された。自宅がある沖縄市内のスタジオでレコーディングが行われたのは、昨年12月のこと。体調に配慮して好きだった酒を控え、さらに歌三線もしっかり準備を整えて臨んだだけあって、2日間の録音は実にスムーズに進んだ。スタジオから聞こえてくるのは、渋いノドから絞り出される独特の味わい深い歌声、絶妙なタイミングで歌に彩りを添えるお囃子と島太鼓、そしてリズミカルに響きわたる三線の音色。それらはいずれも70代後半とは思えないほど力強く、それでいてその年代ならではの重み、凄みを感じさせるものだった。この仕上がりには、当の本人である誠小自身、とても満足していると語る。

「今度のはよ、これは誠小らしい歌である(笑)。声も落ち着いているしね。ワシは18、19歳くらいから吹き込みをしているが、若い頃は声は出ていても落ち着きがなかったんだ。あと、今回は太鼓もワシが入れているからね。太鼓は歌、三線を華やかにして、引き立てるものであって、あれは音感がないとダメなんだが、ワシは(太鼓は)専門だからね。だから今度の歌は、自分で聴いても面白いんだ」

本作に収録されているのは、昔からの民謡が7曲、オリジナル曲が表題の《歌ぬ泉》をはじめ全5曲。オリジナルは今でも日々作り続けており、それを少しずつ本としてまとめているが、今後は書き残すだけでなく録音もして、もっとたくさんCDを作りたい、と考えている。

「だからよ、あんまり死にたくなくなった(笑)。たくさんあるからね、ワシの歌は。歌というのは気持ちで歌うものだから、気持ちの良い場合にはどんどん歌が出てくるんだ。歌は聞いて面白いものが歌である。誰がなんと言おうとも、面白くないと歌じゃないよ」

《歌ぬ泉》で誠小は、「歌と三線は人の心を元気にする。世間の人々のためになるよう、一生懸命に演奏しよう」と歌っている。沖縄の歌と三線を心から愛し、その魅力を伝えようと歌い続ける彼の思いが、最高の形で結実したのがこのアルバムなのである。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年06月16日 15:07

更新: 2010年06月16日 15:10

ソース: intoxicate vol.85 (2010年4月20日発行)

interview & text : 高橋久未子(箆柄暦編集部)