インタビュー

HALFBY 『The Island Of Curiosity』

 

テーマはズバリ〈夏〉! リゾート感溢れるトラックで新たな楽園を開拓したグルーヴメイカーのニュー・アルバム!

 

ブレイクビーツをベースにした、賑やかでチャーミングなポップ・ミュージックを一貫して届けてきた高橋孝博=HALFBY。だが、3年という長めのインターヴァルを経てのニュー・アルバム『The Island Of Curiosity』は、そんな彼の印象を鮮やかに刷新することになるだろう。4つ打ちの楽曲が多くを占めており、ボルティモア・ブレイクスやフィジェット以降のダーティーなベース・ミュージックなどの要素も見い出せる。ファニーな持ち味はそのままに、ダンス・ミュージックのど真ん中に飛び込んでみせた、そんな一枚だ。

「これまではヒップホップ基準のビートを軸にしつつ、いかにポップスに近付けるか、みたいなコンセプトでやってきたんですけど、前作の『Side Farmers』がその方向での着地点になったんですよね。そこでひと段落したと言うか。で、その後の3年の間にDJでかける音楽も変わってきて、メジャー・レイザーみたいなものが入ってきた。今回はそういうダンス・ミュージックにアプローチしたものになったと思います。とは言ってもシフト・チェンジしたみたいな意識は全然なくて、例えば僕は(メジャー・レイザーのメンバーでもある)ディプロに最新型のBボーイイズムを感じる。そういう意味では視点は変わってないですね」。

そう語られる本作のテーマはズバリ〈夏〉。ビーチの開放的な空気を吹き込んだバレアリックな趣のダンス・トラックが並んでいる一方で、昨今のインディー・ロックのモードであるトロピカルでアフロな歌ものであったり、ビーツ・インターナショナルを想起させるネオアコ風味のダンス・ポップも並列で混ぜ込まれているのが楽しい。

「アルバムを作り出した頃、ヴァンパイア・ウィークエンドを筆頭にトロピカルな要素を持ったバンドがたくさん登場してきて。かつ、ダンス・ミュージック方面からもバレアリックな音が出てきた。この2つを混ぜてみようというアイデアが最初にあったんです。実際にDJでもその両方をかけていたし、そういうことをやってる人は他にいないので、自分がやる意味はあるんじゃないかと」。

また、多くの楽曲がアッパーすぎない良い湯加減のグルーヴを湛えていることも、アルバムの持つリゾート感を際立たせている。なんとなく聴きはじめたら止められず、つい何度もリピートしてしまう──そんなある種の〈ユルさ〉を伴った快楽性を、出会い頭に聴き手を掴むキャッチーなサウンドを得意としてきたHALFBYが作り上げたことが興味深い。

「最初に作ったのが2曲目の“Blue Condition”で、まあ地味と言えば地味な曲じゃないですか(笑)。いちばん時間がかかった曲でもあるんですけど、でもこれが出来たことでアルバムの全体像が見えた。今回はキャッチーな感触よりも聴いた時の気持ち良さを優先してるんです。シングル的な曲でドカンと弾けるよりも、アルバム全体のバランスを念頭に置いたというか。抑制を効かせつつ、アルバム一枚聴けば〈ああ、HALFBYだ〉って思ってもらえるギリギリのバランスを模索しました」。

わかりやすい衝撃をめざしたわけではなく、決してシーンの最前線に目配せした作品でもないだろう。しかしさまざまな音楽を選び取って混ぜ合わせる、その手つきとアイデアはまぎれもなくHALFBYだけのものであり、結果的に彼にしか作り得ない、他にない音楽が成立していると思う。強いて近い感触のものを挙げるとするなら、DorianやBETA PANAMAといった日本のアンダーグラウンドなダンス・ミュージック・シーンからポップな音を発信している新鋭たちになるのかもしれない。

「アンダーグラウンドなシーンにも良いDJや良いアーティストだなって思う人たちはたくさんいますし、そういうイヴェントに遊びに行ったりもしていて。ただ、僕がそっちに歩み寄るんじゃなくて、ポップで明るいスタイルのままで彼らと同じ位置に到達したいですよね。このままで共演できたら最高って思います」。          

 

▼HALFBYのリミックス・ワークが収録された作品を紹介。

左から、ゴー! チームの2007年作『The Wrath Of Marcie』(tearbridge)、DE DE MOUSEのリミックス・アルバム『sunset girls remixes & more』(avex trax)、トラックメイクを手掛けた“ミラクル☆BANZAI”が初回盤のみに収録された木村カエラのベスト・アルバム『5years』(コロムビア)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月18日 13:30

更新: 2010年06月18日 13:37

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

インタビュー・文/澤田大輔

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