インタビュー

大宮臨太郎&藤村俊介

弦楽器2本の世界を楽しんでほしい

ともにNHK交響楽団のフォアシュピーラーを務めながらソロや室内楽で活躍しているヴァイオリニストの大宮臨太郎とチェロの藤村俊介が、『パッサカリアーヴァイオリンとチェロのための作品集』を録音した。ヘンデルの《パッサカリア》とラヴェルのソナタはよく知られているが、パガニーニの二重奏曲第3番、ボッケリーニのソナタ、オネゲルのソナチネは演奏される機会のない珍しい作品。それを2本の弦楽器により厚みと量感を感じさせる音色で表現、雄弁な音の対話を繰り広げている。

「ヘンデルとラヴェルはすぐに選曲が決まったんですが、あとの作品は楽譜店で膨大な量の譜面を調べ、かなり多くの楽譜を買って実際に音を出して検討し、ようやくこの5曲に決めました。まだまだ楽譜がいっぱい残っています(笑)。共演者に大宮さんを推薦したのも僕で、建設的で自由奔放に弾くヴァイオリニストと共演したいと思ったからです。今回の録音は二人で建造物を作っていくようなもので、大宮さんはメロディ屋。サッカーに例えると大切なところで入れる点取り屋かな」

藤村俊介の言葉に大宮臨太郎が続ける。

「僕はヴィオラと共演することは多いけどチェロとのデュオは珍しい。藤村さんは僕の持っていない面をたくさん備え、サッカーでいうとボランチ的な存在。今回はとりわけオネゲルがすばらしい作品で、第2楽章は教会のアンサンブルのよう。もちろんパガニーニのようにシンプルだからこそ各々の音が明瞭に聴こえて難しい作品もあるけど、ヴァイオリンとチェロのデュオは一番自然な響きがすると思う。かなりの音域をカバーできるし。オネゲルは仲間で演奏するのにいいんじゃないかな」

二人ともドイツに留学した経験があり、音楽が日常に根づいている、その感覚をいまも大切にしたいという。

「僕はチェロのウィスペルウェイが好きで、彼の音楽を聴くとじっくり作品と対峙し、バランスのとれた生活をし、すべての疑問を解決した上で弾いていることが明確にわかる。そんなチェリストを目指したい。今回の録音は新しい発見が多くありました。ドイツの人々のようにゆったりした時間のなかで音楽と向き合う、それを思い出しましたし、いろんな挑戦や斬新な試みもしました」

一方、大宮臨太郎の夢はピリスとデュメイのような息の合ったデュオを演奏すること。

「ずっと自分に合うピアニストを探しています。僕はフランス作品が好きなので、今後はもっとレパートリーを広げていきたい。常に新鮮な響きを追求しています」

まず、ヘンデルでオープニング。そして二人が口をそろえて〈掘り出し物〉と称するオネゲルで幕を閉じる。そこに流れているのは奏者の自宅に招かれて聴いているような親密な空気。しかし、演奏は凛とした姿勢に貫かれた緊迫感あふれるもの。その対比が際立って興味深い。この前向きな趣向、第2作もぜひ実現してほしい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年06月24日 22:34

更新: 2010年06月29日 16:57

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)