インタビュー

Boris Berezovsky

聴き手と共有するライヴの昂揚が、打鍵に輝く。


© François Séchet
「スタジオ録音って苦手なんだよね」と大きな身体を揺らして笑うボリス・ベレゾフスキー。「やっぱり聴き手がいてこそ昂揚するからなぁ。ベスト・パフォーマンスはライヴで生まれる。クレイジーな興奮があるからね」

今年5月『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン 熱狂の日音楽祭』のために来日した彼は、なるほど疲れを知らぬピアニストだ。巨大なホールに打鍵の迫力も満ちよとばかりに豪快奔放な剛演を響かせた彼は、最近得意とするリスト作品から《ピアノ・ソナタ ロ短調》《メフィスト・ワルツ第1番》といった人気作をライヴ録音盤で発表。その演奏にたぎる〈クレイジーな興奮〉は、作曲家リスト自身が稀代のヴィルトゥオーゾとして当時の聴衆を熱狂させたことを思い出させようと煽りたてているかのようだ。ロンドン他でのライヴ収録だが、劇的な展開をみせるソナタが静謐へと閉じてゆく……その余韻を吸い込んだ聴衆が爆発的な反応をみせるのも、彼にとっては〈演奏〉の一部というべきだろう。

「ピアニストって孤独な職業だと思う。独りで練習して独りで楽器に向かうからね。だから、室内楽や協奏曲でいろんな仲間と共演できるのはとても嬉しいことだし、『ラ・フォル・ジュルネ』のような音楽祭がもっと世界の各地で開催されても大歓迎だ(笑)。愉しいからね!日本では毎晩ディスコに行くしなぁ、ふっふ」

次の録音は?と伺うと「次もリスト。《超絶技巧練習曲集》の再録音だね、もちろんライヴで」。1995〜96年に【テルデック】へ録音した盤は今でも彼の代表盤のひとつだが「ライヴ映像もDVD【エイベックス】であるけれど、さらに広く聴いてもらえるかたちで再録音をすることにした」

デビュー期から時を重ねて、ピアニストとしての変化も再録音で味わえることだろう……と言うと「そりゃもう、昔よりデカく弾けるようになったからね!」と茶化して大笑い。しかし、彼のピアノが持つ大きな包容力とも言うべき表現の幅は、ソロの柔らかい表現や室内楽での呼吸にもよくあらわれているだろう。「室内楽も大好きだよ。いろんな共演者に恵まれてきたけど、諏訪内晶子さんは素晴らしいね、輝かしいよ、ほんとうに。ブリジット・エンゲラー(ピアノ)との共演もお気に入りだね。違うエージェントだったんだけど、なんとしても共演するために同じエージェントにデュオとして登録したくらいだから。彼女に会ったことある? いい人なんだよ。話してるとセラピー受けてるみたいなんだよね、お金払わずに(笑)」

諏訪内晶子やエンゲラーとの共演盤(前者は【ユニバーサル】/後者は【ミラーレ】)も既に登場しているが、自身の盤ではほかに「ウラル・フィルとの共演でブラームスのピアノ協奏曲第2番を収録するよ」とのこと。先述のリスト盤でも印象的だったけれど、ベレゾフスキーが豪放磊落な表現だけでなく必ず刻印してみせる、光こぼれる抒情の奔流がまた聴けることだろう。楽しみだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年07月21日 14:07

更新: 2010年07月21日 15:46

ソース: intoxicate vol.86 (2010年6月20日発行)

interview & text : 山野雄大