OGRE YOU ASSHOLE 『浮かれている人』
制作の拠点を地元・長野に移して、より充実した豊かなメロディーとさらに加速していく〈日常からちょっとズレた異次元感〉
すべては音楽のためだけに。今年の春からメンバー3人の地元である長野は八ヶ岳の麓に全員が移り住み、スタジオを構え、より自由で濃密な創作活動をスタートさせたOGRE YOU ASSHOLE。窓の外を鹿の群れが走り抜ける森のなか、時間に束縛されない曲作りが、もともとバンドが持っていた〈日常からちょっとズレた異次元感〉にさらに磨きをかけ、完成させた新しいミニ・アルバム『浮かれている人』だ。
「作ってる時は完全に悪ふざけですけどね。みんなで馬鹿なことを言い合って、それがいつの間にかアイデアに繋がって、〈じゃあやってみよう〉って、やって、爆笑して、それの積み重ねでした。それが結局ポピュラリティーのあるものに聴こえたりするのが、僕としてはすごくおもしろいです」(出戸学、ギター/ヴォーカル)。
ここ数作と同じく、プロデューサーは石原洋、エンジニアに中村宗一郎というゆらゆら帝国の制作チームだった名コンビ。OGREの特長である隙間のあるリズムと、ギターのたった一音にさえ豊かなメロディーを感じさせる繊細な感覚を活かしつつ、全曲にキーボードとコーラスを配して過激さと普遍性を両立させた魅力的な音を作り上げている。ドラムのタムの代わりに声を使ったり、古いリズム・ボックスのサンバのリズムをそのまま使ったり、突然ドゥワップ風のコーラスが飛び出したり、聴けば聴くほど何だか変で、そして文句なく楽しい。
「キーボードはいっぱい入ってますね。いままでなら入れなくていいんじゃないかというところにも、今回は大袈裟に入れたりしていて」(馬渕啓、ギター)。
「4曲目“レースのコース”とか、〈何でこんなにムーディーな音なんだ?〉って、録ってる時から爆笑してました」(勝浦隆嗣、ドラムス)。
「3曲目“どちらにしろ”は、最初はもうちょっと音数があったんですけど、石原さんが全部削っちゃえって。ベースとギターは〈ドゥン〉〈ペリ〉としか聴こえない(笑)」(平出規人、ベース)。
「作品はバンド・サウンドじゃなくてもいいと思ったんですよ。曲が行きたい方向に行けばそれでいいし、プレイヤーとしての誇りもなくなりました(笑)。もともとないですけどね。もっと自分たちが驚いたり笑えたりするものが作りたいし、そのためには規制を取り外したほうが楽だったので。いわゆるロック・バンドがわかりやすいロックをやってるのって、コスプレにしか見えないんですよ」(出戸)。
「その言葉で敵を作ったと思うよ(笑)」(勝浦)。
つい先日もモデスト・マウスのジョニー・マーと対談して交流を深めたらしいが、サウンド的にも精神的にもUSインディー・ロックに強いシンパシーを持ち、日本のシーンで異彩を放つOGRE YOU ASSHOLEが、世間的な意味で〈売れてきている〉ことは実に嬉しい。この夏も大規模なフェスにいくつも出演し、9月からはツアーが始まる。〈日本のロック・シーンにOGREあり〉ということを、この機会にぜひ体験してほしい。
「変なバンドがあまりいないですからね。ちゃんとしてるバンドが多いじゃないですか、日本は(笑)。そこに満足できない、一見普通の人なんだけどちょっと変な人が観に来てるのかも。でも、意外とポップなものとして聴いてくれるのかもしれないし、おもしろがってくれれば何でもいいですよ」(出戸)。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年09月16日 17:20
更新: 2010年09月16日 17:21
ソース: bounce 324号 (2010年8月25日発行)
インタヴュー・文/宮本英夫