インタビュー

近藤嘉宏

近藤嘉宏、初の室内楽アルバムで本領を発揮!

日本を代表する人気ピアニストの一人、近藤嘉宏が、ベルウッド・レコード第1弾として、ショパンのピアノ協奏曲第1番(ピアノ五重奏版)とドヴォルジャークのピアノ五重奏曲第2番を収めたCDを発表。通算30枚近くを国内外でリリースしてきたが、そんな彼にとって初の室内楽アルバムとなる新録音について話を聞いた。

「チェコのマルティヌー弦楽四重奏団とともに5月に行った演奏会のライヴ録音です。彼らとは初共演で、前日にあわせて、翌日本番。すべての音に対して鋭敏に反応せざるえないので、充実感と疲労感はすごかった。でも、一期一会的に神経を集中させて音楽を創るのは好きです。興奮度やモチベーションもあがるし、音楽に対するドラマチックなアプローチができて良かったです」

「ショパンの協奏曲を室内楽版でやると、管弦楽合奏と違って、集中度もエモーションも、ある種の興奮度も、すべて均等になります。協奏曲なので、ピアノが帝王のように君臨する形になるのは仕方ありませんが、そのなかで弦楽四重奏と密に絡みながら、生き生きしたアンサンブルに仕上がっていると思います。ピアノのデリケートなニュアンスや色彩の移ろいなどを聴くのに、室内楽版は好都合です。楽譜はバルトウォミェイ・コミネク校訂による2004年版を使用。カルテット・パートに音の間違いがあり、あわせの段階で気づいた箇所を直す作業もしました。基本的には管弦楽の音の構成そのものなので、突飛な箇所も違和感もありません」

「ショパンの協奏曲1番は若書きですが、晩年の作品に共通する抒情性や寂寥感が感じられるのが魅力。さらに、調性と音楽の一体感みたいなものを表している曲のように思います。ドヴォルジャークに関しては、事前に彼らのCDをあえて聴かなかったので、現場で新鮮な驚きと発見に遭遇できて興味深かったです。ドヴォルジャークの曲は、マルティヌー弦楽四重奏団にとって得意のレパートリーなので、すべての部分が音楽的に流れていきます。僕の役割は、それをどう生かすか、生かしながらいかに支えるか、支えるときも、互いの呼吸がわかったうえで、互いに譲らず突き進んでいく、だけどなぜかあっているという感じ。だからといって意地になって自己主張するのではなく、お互いの聴かせどころは自然に、よりひきたてあいながら、パワーのある音楽を目指しました。ボヘミア的な色彩感は、今まで経験したのとは別種で、ボヘミアの音楽とはこういう形の表現なのだと実感しました。伝統、芸風、いずれも彼らならではのもの。経験豊かで実力ある室内楽奏者は、色々な奏者の多彩な音楽性や特質に敏感に反応し、受け入れてくれます。その点でもいい経験になりました。折にふれて室内楽をやりたいと思っています。マルティヌー四重奏団とは、11月にプラハのマルティヌー・ホールで共演します。生誕年なのでショパンの協奏曲1番とシューマンをやります」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月05日 17:00

更新: 2010年10月05日 17:07

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

interview & text : 横堀朱美(音楽ジャーナリスト)