インタビュー

Charnett Moffett

革新のベーシストが描いた21世紀の〈ジャズ来るべきもの〉

ニューヨーク出身のジャズ・ベーシスト、チャーネット・モフェット。1967年6月10日生まれの彼は現在43歳。音楽家としてのキャリアは30年を越え、はぐくまれた環境は常にジャズ・シーンのど真ん中にあった。父は、ジャズ界の革命児オーネット・コールマンや巨人ソニー・ロリンズとの共演で知られるドラマーのチャールズ・モフェット。チャーネットの名は、チャールズとオーネットの名前を足したものだという。なんと'74年には初レコーディング、翌年にはモフェット・ファミリーでツアーを行う。'83年にはウィントン・マルサリス・バンドに加入し名声を得る。その後は、ブランフォード・マルサリス、トニー・ウィリアムス、マンハッタン・ジャズ・クインテットなどでキャリアを積み、'87年にはジャズ新主流派の筆頭ベーシストとして名門ブルーノート・レーベルより初リーダー作を発表。そしてこの度、11枚目となるリーダー作『トレジャー』が披露された。インスピレーションに溢れ、弾き出したら止まらないと言わんばかりの馬力! 今回もアップライト(ウッド)・ベースとエレクトリック・ベースを縦横無尽に操った彼が新作に注ぎ込んだものとは何だったのか。

「コンセプトは、スタイルにかかわらず異なった方法でスウィングを表現すること」と語る。驚異の集中力をもって2日間で録音されたアルバムだが、サウンドの革新的な彩りと深みに圧倒される。多少乱暴だが、あえてアルバムの特徴を一文に凝縮すれば〈オーネット・コールマン的表現にインド音楽を加味し際立つメロディとスリリングな即興〉といったところか。瞑想的なインド音楽の要素は冒頭曲の《スウィング・ストリート》他多くの楽曲で使用されたタンブーラやタブラ、シタールといったインド民族楽器の存在だけでなく、《セイ・ラ・ラ》でチャーネットが大きな興味を寄せるラーガ(インドの音楽旋法)で構成されていることにも見てとれる。また本作では、その他の様々なスタイルで〈スウィング〉を抽出する。朋友スタンリー・ジョーダンの客演が光る《ザ・シング・オブ・スウィング》では躍動的トラディショナル・ジャズの旨味をウッドで存分に聴かせ、エレクトリック・ベースによる超高速プレイで展開する《ビーム・ミー・アップ》、クラシック音楽の手法を取り入れつつアップライトの可能性を探求したタイトル曲《トレジャー》など曲ごとの沸き立つ独創性に聴き手は圧倒される。しかし聴き重ねるうちにそれら異なる表現が、進化しても揺るぐことのないジャズの核心である〈スウィング〉によって成り立っていることに気付かされる。

「私はまぎれもなく、音楽家であり作曲家だ。業界に左右されることなく、私は常に自分の音楽に忠実にあろうと努めている」という力強い言葉は、本作が内的衝動と知性によって完成した21世紀の〈ジャズ来るべきもの〉の姿を映しているように思えてならない。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月05日 17:17

更新: 2010年10月12日 18:54

ソース: intoxicate vol.87 (2010年8月20日発行)

interiew&text:諏訪泰介