インタビュー

ケイコ・リー

『スムース』〜大人のための癒しのアルバム

ケイコ・リーは、新作『スムース』について、「一言で表現すると大人のための癒しのアルバム、大人が聴いてて気持ち良いなあと思ってくれれば」と語る。実際、慌ただしい日々に滑らかな時間が流れ込み、そこに落ち着いた歌声が寄り添っているかのようでもある。ホーギー・カーマイケルの《ニアネス・オブ・ユー》からビートルズの《アクロス・ザ・ユニバース》まで、いずれ劣らぬバラードの名曲が10曲、穏やかに並ぶ。

「いつも一緒のバンド仲間からやって欲しい曲名が次々とでてきて、アルバムに凹凸があるよりはスーッと聴きやすいほうが、聴き手の立場からしても良い」と選曲していった。バラエティを備えながらもしっかりまとまっているのは、この人の歌の力によるものだろう。

「ディオンヌ・ワーウィックやルーサー・ヴァンドロスの歌で親しんではいたけど、バカラックの曲とは知らなかった」という《ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム》もあれば、「メンバーも大好きなので」というビル・ウィザースの《ハロー・ライク・ビフォア》もある。ノラ・ジョーンズの《ドント・ノウ・ホワイ》に関しては、

「歌い方やピアノを弾いている姿、彼女の全てが自然で、その自然さが素敵だと思う。上手く聴かせようとしていないところも好きですね。私もテクニックをひけらかしたりする唱法は好きじゃないんですよ。もちろん、テクニックは必要なんですけどね」

《ウィークネス》は、映画『ウーマン・イン・レッド』のためにスティービー・ワンダーが書き、ディオンヌ・ワーウィックと一緒に歌った曲だ。「難しくてしびれましたね(笑)。考えてみたら、オリジナルでは二人で歌っているじゃないですか、一人では大変なんだと、歌ってみて気づきました」。その《ウィークネス》を含めて、ジャズ・フュージョン界の重鎮ジョージ・デュークがわざわざ来日、アレンジと演奏で参加してくれたのも大きな収穫だった。「ふと我に返ると、ジョージ・デュークがそこにいる。ドキッとして、自分が歌うことを忘れそうになる(笑)。良い経験になりました」。

いずれもカヴァーだが、「出来る限り原曲に忠実に、普通に歌おうと心がけた。それが逆にとても大変で、私にはひとつのチャレンジでした」という。改めて、「歌は本当に難しい」とも痛感した。「マイケルやスティービーの曲は、シンプルなだけに普通に歌うのって難しいと改めて感じました。彼らの持つ良い意味での毒を一度排除して、自分のものにするのが本当に難しかった。まあ、いつまでも、歌は難しいんですけどね」。そうやって苦労するからこそもたらされる喜びも大きい。それでなくとも殺伐として、ささくれだった世の中だ。心の憩いの場所となる音楽を大切にしたい。「時代を意識しましたか」という問いには、「そうですね」と、照れ臭そうに、この人らしい控えめな答えが返ってきた。

ケイコ・リー LIVE INFORMATION
10/17(日)佐世保ジャズフェスティバル
11/3(水・祝)LOVELY記念コンサート
11/11(木)12(金)名古屋ブルーノート
11/27(水)一関ベイシー
12/11(土)下関ビリー
2011年1/14(金)15(土)ビルボード大阪
30(日)31(月)ブルーノート東京

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月20日 11:46

更新: 2010年10月20日 11:53

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text : 天辰保文