インタビュー

David Sylvian

シルヴィアンならではの視点で構成された作品集

ヴァージン・レコードのくびきを逃れ、自身のレーベル【samadhisound】を立ち上げたのが2003年。以来、コラボレーションの機会がすっかり増えたと、本盤の主役は語る。かつては、レコード会社によってコラボレーションの機会は制限されていたし、レコード会社が声をかけてくれた音楽家やレーベルに理不尽な要求をすることさえあったと、デイヴィッド・シルヴィアンは明かしてくれた。

30年近いキャリアをもちながら、他者と好きにコラボレートする自由は、実際のところ彼が今まで手にしたことのなかった自由だったのだ。だからこそ、今、彼は「それがどんな場所へと自分を連れていってくれるか、楽しみながら享受している」と言う。『スリープウォーカーズ』は、一言で言えば〈サイド・プロジェクト〉だ。だが、それは単なる〈副業〉を意味しない。聴いてもらえばたちどころにわかるが、ここでのシルヴィアンは、そんな言葉が無意味に思えるほど生き生きと躍動している。

「タイトルにある通り、ここに収録された曲はスリーパー、つまり人知れず寝かされていたものなんだ。言ってみれば、行き場をなくし、酷使され、使い捨てられた孤児なんだ。今こそ、彼らを受け入れて、面倒を見てやらなきゃいけない。そして、お互いを引き合わせてあげなきゃいけないと思ったんだ」

登場するコラボレーターは、スティーヴ・ジャンセン、坂本龍一といった何十年来の同志から、近年のソロ作品『ブレミッシュ』、『マナフォン』で重要な役割を果たしたクリスチャン・フェネス、マーティン・ブランドルマイヤー、今後パートナーシップのさらなる発展が期待される藤倉大など、ジャンルも作り上げるサウンドもまったく異なる音楽家たちだ。しかし、アルバムを通して聴いても不思議と違和感を感じることはない。アクースティック楽器のざらつき、あるいは電子音のざわめきに彩られた個性的な孤児たちは、慎重に〈引き合わされ〉、反発しあうことなくひとつの絵のなかに溶け込んでゆく。

打ち捨てられていた曲たちが目を覚まし、ひとつのアルバムのなかで共鳴しはじめる。そんなイメージを、ジャケットを飾る女性写真家クリスタマス・クラウシュ(http://kristamas.net/)のセルフ・ポートレイトは、このうえなく見事に要約してくれていると、シルヴィアンは語っている。

「華麗で、美しく、エキゾチックでエロチックな孤児。イメージにあわせて戯れるように姿を変えていくけれど、人生と人間の暗部にも通じている。表面の美の裏に、苦悩や複雑さが隠されている」

クラウシュの作品を評するシルヴィアンの言葉は、しかし、まるで彼自身の音楽について語っているようでもある。『スリープウォーカーズ』が単なる余技の産物ではなく、音楽家の核心に近いところから産み落された大事な〈作品〉であることは、そんな言葉からも明瞭に汲み取ることができるだろう。

 

『Amplified Gesture(アンプリファイド・ジェスチュア)上映&'Manafon'5,1chオーディオコンサート』
監督・編集:フィル・ホプキンス プロデューサー:デヴィッド・シルヴィアン 出演:デヴィッド・シルヴィアン/大友良英/中村としまる他
10/29(金)30(土)吉祥寺バウスシアター
11/6(土)〜19(金)大阪・シネ・ヌーヴォ
11/26(金)札幌・シアター・キノ
http://www.epiphanyworks.net/

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年10月22日 12:14

更新: 2010年10月22日 15:31

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text : 若林恵