Yaron Herman
レーベル移籍、新トリオでの第一弾
ブラッド・メルドー以後…。ヤロン・ヘルマンはそんな清新な弾き口を無理なく出しているジャズ・ピアニストだ。81年イスラエル生まれ、ずっとパリに住む彼の通算5作目は仏ナイーヴから独アクトに移籍してのものとなる。
「スウェーデンのベース奏者のラーシュ・ダニエルソンのグループにいて、そのライヴを彼が所属するアクトの社長のシーグフリード・ロッホがよく見にきていてね。それで、僕の事も気にいってくれ、誘ってくれていたんだ」
自分のリーダー作をちゃんと客観的に聴くタイプであるという。新作はどんな内容になったと、本人は感じているだろうか。
「今までで一番理路整然としたものになったと思う。アルバム・タイトルは、普通の生活をしていた少女が白いウサギと出会った事でそれまで見たこともない世界を旅して回るという、『不思議の国のアリス』を思わせる展開ゆえに、そう付けてみた。聴き手もCDを聴く前は普通の日常にいるところ、これが始まると想像もつかない世界に引き込まれちゃう、そういう意味も重ねているよ。まあ、『不思議の国のアリス』は一つの示唆であり、聴く人はそれぞれの解釈をしてほしい」
新しい若いリズム隊で録られた、トリオ作。自分が最年長のバンドは初めてだよと、彼は笑う。
「二人ともNY在住で、昨年9月のカナダ・ツアーのために組んだんだけど、リハをしたらあまりに息がピッタリあって驚いた。どうして僕の考えている事がそんなに判るのという感じで、まさに願いが叶うトリオと感じている」
収録曲の2/3は自作。ただし、彼単独のクレジットと、3者連名のものがある。その違いはどこにあるのか?
「3人の名前を連記した曲は、フリー・インプロヴィゼーションによる演奏なんだ。決め事なしで、まったくのリアルタイム・コンポジションで録られた。僕にとっての理想の即興は、あたかも作曲されたような、クールなロジックがあるもの。だから、作曲された楽曲をやっているように聴こえたなら嬉しい」
過去、ビョークやスティング曲などをカヴァーしている彼だが、今回はニルヴァーナとレディオヘッドの曲を取り上げた。
「ロックが好きだから、取り上げちゃうね。でも、それって、チャーリー・パーカーやマイルズ・デイヴィスが同時代のブロードウェイ曲やラジオで流れていたメロディを取り上げていたのと同じことだと思うよ」
さらには、イスラエルの有名曲やシャンソン曲、ディズニー・ソングも取り上げている。驚かされるのは、自作曲も含め、それら異なる属性を持つものがなんの違和感もなく、今の陰影をたたえた演奏として共存していることだ。
「おっしゃる通り、というしかない。どんな曲をやろうと、自分ならではの解釈、切り口をもつものにしようと腐心し、出来る限りクリエイティヴなものであらんと僕は心血を注いでいる。それゆえ、統一感が出てくるのだと思う」