Jean-Marc Luisada
バラードはショパンの人生をたどるロード・ムーヴィー
1985年のショパン国際ピアノ・コンクールは様々な個性を持ったピアニストを輩出した。ジャン=マルク・ルイサダもその一人で、豊かな音楽性によって多くの聴衆を魅了し続けている。2010年には2度来日し、その間に日本でショパンのバラード全曲など録音を行なった。
「ショパンの作品、特にバラードは私にとっても特別な作品です。4つのバラードはそれぞれ個性的ですが、ショパンの人生そのものを反映しているように思います。映画が好きな私にとって、この4曲はショパンによるロード・ムーヴィーなのです。その内容はベートーヴェンの最後の3つのソナタに匹敵すると思います」
ショパンのバラードは第1番が1831〜35年頃に書かれ、 第4番は1842年に書かれている。それほど離れていないように感じるが、短いショパンの人生から考えると、その時間の経過はとても重要である。
「第4番にはとても特殊な言葉遣いがあると思います。プルーストの『失われた時を求めて』の例をよく出すのですが、この物語にはナレーター(語り手)が存在します。それと同じようにショパンのバラードにも語り手が存在しているのですが、その語り手が語るのは〈絶望的なノスタ ルジー〉なのです。第4番には私自身の解釈があります。これは人生の悲劇を表しています。最初の音は、なにか衝撃的な女性との出会い、素晴らしい出会いを表現し、しかし、それは次第に消え去って男性は孤独の中に取り残される。最初のテーマが曲の中で3度出てきますが、その都度、悲しみや孤独を表現します。ありきたりな結婚をした後に、男性は再びその憧れの女性との衝撃的な再会をし、ますます絶望の中に取り残され、恋愛感情に苦しめられる。とても個人的な解釈ですが、そう感じます」
ショパンの作品群の中でも、個性的な作品がバラード。天才的な発想で作られた独創的な世界である。
「もちろんポーランドの詩人ミツケヴィッチの詩からインスピレーションを受けた作品ですが、しかし、パウル・バドゥラ=スコダと話した時にも同じ意見だったのですが、第3番は明らかにミツケヴィッチの詩をベースにした作品だと思いますが、それ以外の3つに関しては詩との直接的な関連は薄いと思います。第2番は、嵐に打たれる美しい花という解釈がされますが、私はもっと激しい出来事、例えば若い女性が襲われるといった衝撃的な出来事を表現していると思われるのです」
ひとつひとつの作品について、じっくり語り始めると、かなり熱っぽくなるルイサダ。彼の音楽的な情熱は、その想いの深さからやって来るようだ。次回の来日時には東京シティ・フィルとのブラームスのピアノ協奏曲第1番、そしてワルツ全曲を含むオール・ショパン・リサイタル (12月1日、東京芸術劇場)が予定されている。彼の音楽的な真髄に触れる秋になりそうだ。
『2010年12月来日コンサート』
12/1(水)東京芸術劇場[リサイタル]
12/2(木)奈良・秋篠音楽堂[リ]
12/4(土)長野・松本ハーモニーホール[リサイタル]
12/9(木)東京オペラシティコンサートホール[東京シティ・フィル、宮本文昭指揮]
12/12(金)島根・雲南市加茂文化ホール[リサイタル]
12/13(月)鳥取・米子市文化ホール[リサイタル]
http://www.imc-music.net/