フラワーカンパニーズ 『チェスト! チェスト! チェスト!』
メジャー復帰を果たした前作から、“深夜高速”トリビュート盤~ベスト盤とノリノリでリリースを重ねる彼らが、満を持して乗り出した〈最高傑作〉への挑戦——さあ、その結果はあなたの耳で判断してください!
フラワーカンパニーズの旗印は常に〈攻〉の一文字である。波乱万丈の21年、雨の日も風の日も、世間にモテる時もモテない時も、取り続けたファイティング・ポーズにブレはない。40代に突入しようが、ドラムスのミスター小西が骨折しようが、いまこの瞬間もバンドは前進する意欲満々である。特にニュー・アルバム『チェスト! チェスト! チェスト!』は、近年の作品でもっとも〈攻〉を感じさせる作品だ。リリース前にして、早くもバンド周辺では〈最高傑作!〉という声が飛び交っている。
「それは完全に自認してます。前は〈フラワーカンパニーズっていうバンドだから、コレでいいじゃん〉ってバンドに甘えてた部分もあった気がするんだけど、今回はいつものフラワーカンパニーズらしくなくてもとにかく〈聴きたくなるやつ〉を、CDとして最高傑作を作ろうという意識が全員にありました」(グレートマエカワ、ベース)。
「曲が良くなるのであればどんな手段でも取ろうと。いろんな人が入ってきたから、アレンジもおのずとしっかりしたし、曲調もヴァラエティーに富んでます」(鈴木圭介、ヴォーカル)。
冒頭の“感情七号線”は亀田誠治がプロデュースを手掛けたことをはじめ、キーボードに奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)とDr.kyOn、パーカッションに大森はじめ(東京スカパラダイスオーケストラ)が参加していたりなど、ほとんどの曲にゲスト・ミュージシャンを迎えている。そして出来上がった厚めのサウンドは、4人だけで作り上げた前作『たましいによろしく』とは対照的だが、細かいアレンジの妙味と聴きやすさを楽しむならこちらが上か。
「ひとり入るだけでバンド・マジックが変わるし、すごく刺激的でしたね。特に亀田さんには圧倒的にびっくりして、こういう人が本当のプロって言うんだなと(笑)。俺らもプロなんですけど、4人だけでわかっていて曖昧にしてきたことも多いから。そこをちゃんと見てくれて、一皮も二皮も剥けた気がする」(グレート)。
楽曲はほとんどがアップテンポ。2分台の曲も4曲あるなど小気味良いロック・ナンバーが連なり、聴き応えは軽やかだ。そのなかにはラテン風味の“ラララで続け!”“雲の形”、64年頃のビートルズのような“最低気温”“夏の空”など多彩な味付けの曲が含まれ、痛快なハード・ロック“TEENAGE DREAM”がラスト(ボートラを除く)を飾る。
「短い曲を作りたいというテーマがあったんですよ。このところ5分ぐらいの曲が多いからフェスだと演れる曲数が少なくて、2分台ならもっとできるのに……と思ってたから。僕は長い曲のほうが得意で、歌詞を増やすのはいくらでもできるし、“深夜高速”も13章ぐらい作ろうと思えばできるんですけど(笑)。短い曲が苦手な自分を鍛える意味も込めて簡潔に作ったから、小気味良く聴こえるんじゃないかな」(鈴木)。
とはいえ、あくまで「歌を響かせるため」(グレート)の曲調とアレンジであり、主役である鈴木圭介の歌と歌詞に置くメンバーの信頼は絶大である。彼もそれに応え、愚直なまでに人間性丸出しのユーモア、ペーソス、言葉遊び、シモネタなどを駆使して〈2010年、バンドマン、男、40代〉のリアルな心境を見事に描き出している。
「いつになくヴァラエティーに富んだカラフルなアルバムですけど、たぶん歌詞だけ見ると近年のなかではいちばん貧乏くさいと思います(笑)。“感情七号線”にしても六畳一間から出ない歌ですから。今回は歌詞に〈未来〉という言葉が多いと思うんですけど、未来はそう長くないという自覚が出てきてるというか、不安があるんですよ。これから自分が富豪になるとかセレブになるとか、そういう可能性はもうまったく感じませんからね(笑)。リアルに身体も弱ってくるし、親もくたびれてきてるし——そういうことも含めて、だんだん小さくなっていく未来をリアルに歌いつつ、なおかつシミったれた感じにしたくなかった。〈これ悲しいな~〉ってなっちゃうと、みんな年取るのが嫌になっちゃうんで」(鈴木)。
「不安があったとしても、そういう歌で自分を奮い立たせることができるから。それでいいと思います」(グレート)。
タイトルになった〈チェスト!〉というのは、鹿児島の方言に由来する気合の叫びで、元は戦で出陣する際に、そして現在も格闘技の世界などで使われる、自分を鼓舞するための叫び声だ。いまの彼らの音楽を表すのに、これほど相応しい言葉はない。
「弦とか鍵盤とかパーカッションとかを入れてるぶん、〈ソフトになっちゃったな〉みたいに聴こえる可能性もあるんですけど、実は『たましいによろしく』よりよっぽどこっちのほうが攻めてます。攻めてるぶん、ちょっと評価が見えない部分もあるものの、後々聴くと〈これはやっぱりカッコイイな〉とか、そういう感じかもしれない。不安もありますけど、反応が楽しみです」(鈴木)。
現在は骨折中のミスター小西に替わるサポート・メンバーを入れてリリース・ツアーを展開している最中だが、来年1月まで続くその後半には彼も復帰する予定。攻め続けるロック・バンド、フラワーカンパニーズの雄姿をぜひライヴでも確かめ、声援を送ろう。合言葉は〈チェスト!〉だ。
▼新作に参加したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ソウル・フラワー・ユニオンの2008年作『CANTE DIASPORA』(BM tunes)、東京スカパラダイスオーケストラのニュー・ミニ・アルバム『Goldfingers』(cutting edge)
▼フラワーカンパニーズの近作品を紹介。
左から、2004年作『世田谷夜明け前』、2006年作『脳内百景』(共にTRASH)