SAYAKA
キューバ人を泣かせた、極上の哀愁と斬新なアンサンブル
オルケスタ・アラゴンに代表されるチャランガ編成の色香が好きで、80年代末マラヴォワ・サウンドに惚れ込んだ者なら、ぐぐっと熱いものがこみ上げるはず。かつてヴァイオリンの典雅な響きは、カリブ混血ダンス音楽の花形だった。SAYAKAのセカンド作は、スタンダード尽くしの前作とは打って変わって、全編これキューバ讃歌。ライブで練りに練ったのち録音に臨む、アンサンブルの成熟度が素晴らしい。昨年末、日本=キューバ外交樹立80周年の機に、ハバナとマタンサスで単独4公演を実現させた。「キューバで得たものを、どうしてもキューバにお返ししたい気持ちがあったので」と彼女。
キューバ音楽とフラメンコとの斬新な交錯。型にはまらぬ展開ながら、腰をゆさぶるグルーヴは途切れない。なんせチームワーク抜群。「仲いいんですよ、信頼関係ありますね。それに決まりごとがない。グルーヴしよう、新しいことやっちゃおうよと。とにかく、パターンは禁句です」。2作目で、グループ名義を晴れて明言した。
キューバ公演で観客をよよと泣かせたという、シンプルながら凝った作りの往年の佳品《クーバ・リンダ》。レクオーナ作《ラ・コンパルサ》には、《そよ風と私》《グアンタナメラ》の一節をさりげなく挿入。ラテン・ジャズの定番《キャラバン》は、アヴァンギャルドさとディープな要素がない交ぜで、記憶に残る。東部サンティアゴの有名なソン《ビロンゴ》まで聴けば、大儀見ヴォーカルの出番の多さに、ついニヤり。儀式歌《オバタラ》は、短調の原曲を長調に転換。そのせいか……「違いますよね。アレンジにアレグリアスを入れてます」……で、なぜかメロディが沖縄っぽい。「そう、狙ってたわけじゃなくて。大儀見さんのアイディアが一番強く出た曲です」
1年前、「オリジナル曲の演奏にこだわっていない」と語っていた彼女だが、当セカンドにはオリジナル4曲が登場。いずれも優美で、じつに完成度の高い逸品揃いだ。ライブではもっとテンポのスイッチ加減が自由らしい《ダンサ・ロカ》。哀愁たっぷりのダンソン《マリポーサ》。「表に見えないキューバ人の優しさ、美しさ、内面の穏やかな感じを意識して作った曲。それに、少し混沌としたものが入っている。ハバナのマレコン海岸通りをイメージした」という、余韻たっぷりの《アスル・メロディオーソ》。そして冒頭、「これぞパルマ・アバネーラの新しい波!」のかけ声で、聞き手を愉楽のダンスへと招き寄せる《アララ》。能ある鷹は爪を隠す、の好例か。
「クラシックのヴァイオリンだと、エッジをきかせて撥音を、リズムを出すのは、言うならば下品ということになっちゃう。でもそれが楽しいと思ったら、全然下品じゃないんですけどね。きれいに深い音を弾くのが半分、あと半分はキューバで学んだグルーヴを意識して、他の人の音をどれだけ聴けるかです」
彼女の音色と精鋭5名のアイディアに、キューバ人が涙するのは当然!