インタビュー

Mariana Baraj

実験と進化を続けるアルゼンチン・フォルクローレ界の女神

時には野性的に、時には祈るように、パーカッションを叩きながら歌うマリアナ・バラフ。この夏に新作アルバム『チュリータ』をひっさげて来日公演を行った彼女は、アルゼンチンの音楽シーンでも特異な存在だ。魂の叫びのような歌声とプリミティヴなパーカッションをライヴで体験し、驚いた人も多いことだろう。フォルクローレをベースに、ジャズやロック、エレクトロニカからアフリカ音楽にいたるあらゆる要素をミックスし、不思議な音楽世界を作り出すマリアナは、他に類を見ない独特のスタイルと斬新なセンスのアーティストなのだ。

「実は10日前に、私にはペルーの先住民の血が流れていることを知ったの」と笑いながら語るマリアナは、移民大国アルゼンチンならではの複雑なルーツを持っている。幼い頃よりジャズ・サックス奏者の父親の影響で常に音楽に接していたため、気が付けばミュージシャンとして活動。ロック・バンドのサポートなどをこなしながら、ヴォーカル&パーカッションというスタイルにシフトしていく。また、伝統的なフォルクローレを深く研究する一方で、様々な音楽に刺激を受けながら自身の音楽を徐々に確立。その決定的な影響は、アルト・トゥンクボヤシヤンとナナ・ヴァスコンセロスとの出会いだという。前者はトルコ生まれのアルメニア人、後者はブラジルのレシーフェ出身と出自は異なるが、いずれも民族的な要素とジャズをミックスさせたヴォーカル&パーカッション奏者であり、マリアナのスタイルと共通する。

そんなマリアナが自信を持って発表した4枚目のアルバム『チュリータ』は、彼女の新たな一歩となる作品だ。それまでの3作は、フォルクローレやラテンアメリカの名曲、またはアジアやアフリカまでフォローするカヴァー曲のみで全曲構成されていたが、今回はすべてオリジナル曲でまとめている。

「自分が単純に曲を書きたくなったのと、そういった気持ちが自然にアルバム制作を進めていったの。今までのミュージシャン人生で欠けていた部分が、ようやく完璧に埋まった状態になった気がするわ」

その発言が大袈裟でないことは、作品を聴けばすぐにわかるだろう。伝統的なリズムが新たな解釈で生まれ変わり、モダンなサウンドと融合した堂々たる歌声は自信に満ちている。いわゆる〈音響派〉にも通じる実験性を感じさせつつも、アンデスの土臭いイメージは強力だ。

「自分の視野を広げてくれるのがフォルクローレという音楽だし、私のインスピレーションの原点なのよ」
その言葉通り、彼女の音楽はフォルクローレと対立するような手法を用いながらも、しっかりとフォルクローレとして成立している。我々リスナーは、そんなマリアナ・バラフの音楽の冒険に同行し、新しさと懐かしさを自由にただ楽しめばいいのだ。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年11月02日 20:25

更新: 2010年11月02日 20:31

ソース: intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)

interview & text :栗本斉(旅とリズム)