松田理奈
きゅん!とくる瞬間が、イザイの宇宙をひらく。
ヴァイオリンの名手たちが孤高の挑戦を続ける〈無伴奏ヴァイオリン・ソナタ〉の難曲も数々あれど、古典中の古典・バッハと双璧を成すのが、20世紀前半にかけて自らも名奏者として活躍したイザイの書いた全6曲。「ほんっとうに大好きなんです、イザイ!」と満面の柔らかい笑顔で語る松田理奈は、16歳の東京デビュー・リサイタルでも超絶技巧に溢れたこの深い作品を弾いて以来、ずっと愛し続けてきた。…そしてこの夏、4枚目のアルバムとしてイザイ〈無伴奏〉全曲録音を完成。
「皆さん『遂にイザイ録れたんだってね!』ってバッハと並ぶ曲という感覚でおっしゃってくださると思うんです。ただ、自分にとってはもっと近い曲で、楽…じゃなくて難しいんですけど!(笑)自然なんです」
松田理奈は2006年の『ドルチェ・リナ』で、若手のデビュー盤としては珍しいことにモーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集を録音。その深く愛するモーツァルトと並んで大好きなのが、この近代ベルギーの大家イザイだというわけで…念願叶っての新アルバムだ。
「全部で6曲の無伴奏ソナタ、それぞれシゲティやクライスラーなど当時の名手たちに献呈されてます。イザイ自身も名奏者だったわけですから、ある意味で挑戦的なのかも知れませんね。どの曲も個性的な素晴らしい作品ですし、あちこちにバッハの音楽をうまーく取り入れたりして、ほんとうに面白い曲だと思います」
内容の濃い作品だが、崇めるのではなくリアルに近しい音楽としてイザイを愛する松田理奈。彼女の新録音も冒頭から、鋭敏なテクニックと集中力で音楽をつかむ、情感の瑞々しい呼吸が印象的だ。作品の深淵に足をとられず、そこに溢れる〈歌〉を心にすくいとるような。
「どの曲にも幾つか神がかった和声があったり、きゅん!ってくるメロディがたくさんあって…」と、ヘンレ版の楽譜をひらいて「自分の楽譜には大好きなところにハートマークを書いてあるんですよ!」
彼女がどこに印をつけたか、録音からご想像を。「ただこれ、全曲きっちり弾くと頭と腕がやられるほどの難曲で、録音に向けて〈イザイ痩せ〉しました(笑)」
この春にニュルンベルク音大の大学院を卒業。その後も教授アシスタントをつとめてドイツと日本を往復する日々だが、時間の流れも緩やかなニュルンベルクで落ち着いて過ごすことで、音楽的発見の喜びも深いという。今後もその生活を大切にしたい、と語りつつ「来年はイザイを弾き始めて10年目。〈無伴奏〉全曲をイザイゆかりの作品と一緒に弾くリサイタル・シリーズをひらいてみたい…」とにっこり。さらにチャンスがあれば、イザイと共に愛するモーツァルトの協奏曲を録音できればいいですねぇ、と夢見る松田理奈。「ありがたいことに、日本各地のオーケストラとモーツァルトの協奏曲を共演する機会も、今後いくつもいただいてます。もうどんどん弾きたいですね!」
『松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル』
12/4(土)栃木県・那須野が原ハーモニーホール
12/12(日)兵庫県立劇場文化センターKOBELCO大ホール
2011年1/22(土)名古屋しらかわホール
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