インタビュー

BUMP OF CHICKEN 『COSMONAUT』

 

ギター・ロックの系譜において偉大なポジションを築いたバンドである。しかしその立ち位置に甘えることも肩肘を張ることもなく、今回もまた淡々と自分たちのサウンド、歌に磨きをかけた新作を届けてくれたぞ!

 

 

キーワードはアルペジオとリズム

BUMP OF CHICKENの傑作『orbital period』から3年。この3年は長かった。ヴォーカル&ギターを担当する藤原基央が30歳となる2009年4月までに20代最後のアルバムをリリースするという話も出ていたが、楽曲が〈熟す〉までに万全を期する彼らの一貫した意志は、すぐに作品を出すことを許さなかったとも言える。そして完成したニュー・アルバムのタイトルは『COSMONAUT』。意味は〈宇宙飛行士〉である。

「いろいろ考えて、そのタイトルを付けましたっていうのではなくて。ポンと出てきて、〈よし、これだ!〉みたいな。これ以外にはないと。じゃあ、これでしょうってことになって。元を正すと、2009年の夏ぐらいからプロデューサーといっしょにスタジオに入ったんです。彼がアルバムの話を切り出してきたので、僕は、気が早い話だけどタイトルは〈宇宙飛行士への手紙〉って考えてるんだ、っていうような話もして。どんな内容になるかわからない時点から、そういう話をしていたんです。 その名残りですよ、〈COSMONAUT〉っていう言葉は。〈ASTRONAUT〉だったり〈ASTRONAUTS〉だったり、そういう候補もありましたけど、まあ語感で。あと〈COSMO〉っていう言葉の意味も、〈ASTRO〉よりいい感じだったので。〈COSMO〉っていう単語に含まれる意味合いが、叙情的で好きだと。〈NAUTS〉なのか〈NAUT〉なのかもありましたが、協議の末に〈NAUT〉になりました」(藤原基央、ヴォーカル/ギター)。

『COSMONAUT』のサウンドの特徴は、BUMP OF CHICKENが10年単位で磨いてきたギターのアルペジオ(分散和音)と複合的リズムが際立って聴こえるところだ。それは彼らが音楽的な進化をするためにこだわってきた要素でもある。

「アルペジオ……好きだからなあ。指で弾くときもあれば、ピックで弾くときもある。エレキでも、アコギでもやるし。単音もあれば、複音のときもあるし。ディレイを被せるものもあれば、そうでないものもあって、っていうね。コードといっしょに展開していくものもあれば、ループ・トラックのようにずっと続くものもあるし。いろんなアルペジオがありますよね。その、いろんなアルペジオの種類が入っていると思います。それが、いちギタリストとしての個性なんじゃないですかね? 個性と呼ぶほど濃いものなのかわからないですけど、個性の種類に入るものだと思います。趣向というか、方向性というか。アルペジオにチョーキングが混ざったり、ていうのもありますしね」(藤原)。

「アルペジオとリズムっていうのが、今回確かにキーワードだなって思ったんですけど、昔からやりたかったんだなあっていうことがわかったような気がします。(いま)俺らの昔の曲を頭のなかで流していて、何でそうしなかったのかって考えると、できなかったんですよね。藤君(藤原)の作った曲がそういうのを求めていた部分があったでしょうし、自分でそれをやりたかった部分もあるし。何となくあると思うんだけどやっぱりわからないし、曲がやってほしいことっていうのを4人が理解できない部分もあったから音数で勝負しちゃったりとか。そうすると、いろんな音が入ることによって、聴かせたい音っていうのがどれかっていうのはとっても難しくなってくるんですよ。その音を出しても、他にいっぱい音が入っているから間がないですよね。間がないからリズムが聴こえてこない、引き立たないっていう。それを『orbital period』を経て、『COSMONAUT』でできるようになってきたんじゃないかなって思いますね」(直井由文、ベース)。

 

大切にしたいのはバンドの〈いま〉

そうしたサウンドの特徴を持ちながらもインストゥルメンタルにはならず、独自の視点で捉えた歌詞と共にBUMP OF CHICKENの歌として成立させているのが、彼らの強みである。

「(レコーディング作業を)やってるときは、いろんなことやったなっていう気がしてたけど、結局聴いてみると、歌に集約されていったような気がしています。最初聴いて、自分で叩きはじめたときは、何がなんだかっていう感じでしたし、難しいことをやってるような気がしていたんですけど、ちょっと離れて聴いてみると全然そういうふうには聴こえなくて。いつも通り歌を聴かせるサウンドになってるし。そこは変らないところだなって思いますね。肝の部分の話……僕がズレてたりしたところは修正してもらったり、っていうのはいっぱいありましたけど。いたずらに、歌を聴かせたいから単純にすればいいのかって言えばそういうわけではないし。何を残して何を引くかっていうところがすごく難しいところでしたね」(升秀夫、ドラムス)。

「アルペジオの話とか、ものの考え方というか、やっぱり昔とは違うっていうか。単純に何のコードって言っていいのかわからないコードとか、今回はすごく多かったと思うし。俺自身も最初聴かせてもらって、耳コピするときもうまく書けないんですよ。俺が音楽的な知識がないだけなんですけど。いろんな難しいコードってたくさんあるから(笑)。でも、考え方、もあるじゃないですか。どこをベースとして鳴らすのか、とかルートがどこなのかって。最終的には聴こえてる音が正解なので、別にそこって思えばいいんですけど。これから先弾いていくうえではわかってないとダメな気がして(笑)、『COSMONAUT』はそういうところが顕著になったと思う」(増川弘明、ギター)。

アルバムごとにサウンドと世界観を広げ、深めてきたBUMP OF CHICKENだが、藤原は「結果的に、いままでの繰り返しになっていい」と明言する。そうはっきり言えるのは、彼らの音楽の力強い骨組みがあってのことだろう。

「僕は、いままでと同じことの繰り返しでいいと思っていて。それは、向上心がない、とかそういうことではないんですけど。だって、いままでがどうなのか、僕ら、わからないですから。いまもどうなのかわからないですから。昨日と違うことをやろうと思っても、昨日がどういうことをやってたのか、僕ら、自覚がなくて。だから、〈今日いいと思ってるものを、今日やろう!〉っていうのがいちばん信頼できる気持ちだし、そこだけはブレないので。だから……過去に重きはないっていうことですね。僕が大切にしたいのは〈いま〉なんです」(藤原)。

 

▼『COSMONAUT』の先行シングルを紹介。

左から、2009年の『R.I.P./Merry Christmas』、2010年の“HAPPY”、同“魔法の料理 ~君から君へ~”、同『宇宙飛行士への手紙/モーターサイクル』(すべてトイズファクトリー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年12月15日 17:58

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

インタヴュー・文/佐伯 明