PARADES 『Foreign Tapes』
ありそうでなかった陶酔感や昂揚感──このたび日本デビューを果たすパレーズのファースト・アルバム『Foreign Tapes』は、聴いた誰しもを驚愕させ、何度もその世界に浸りたいと思わせるはずだ。
パレーズとは、モデュラーに発掘されたジョナサン・ブーレも在籍する、オーストラリアはシドニー出身の4人組バンド。すでに本国では多数のロック・フェスへの出演や、クラクソンズやパッション・ピットのツアー・サポートを経験し、今年初めに発表したシングル“Past Lives”も好セールスを記録するなど、人気上昇中の存在である。実は彼ら、10年近いキャリアがあり、パレーズを名乗る前はヘヴィー・ロック/パンク系のバンドだったらしい。
「僕たちは常に、自分たちが本気で追求したい音楽だけを制作してきたんだ。いまはそれを、これまでより大きなカタチで表現している感じかな」。
そう語ってくれたダニエル・カニンガムはスマッシング・パンプキンズから、ギター&ヴォーカル担当のティム・ジェンキンスはエイフェックス・ツインから、ベース担当のマーク・スカーピンはシガー・ロスから、特に大きな影響を受けているという。
確かに『Foreign Tapes』にはそれらからの影響が感じられるが、それをアルバム全体に散りばめるのではなく、4分程度の1曲のなかに凝縮させているのだから驚きだ。凄まじく高速なビートが轟いたかと思いきや、突然エッジの効いたギター・リフや美しいピアノの旋律が鳴り響くなど、息もつかせぬ展開。しかも、すべてをキャッチーにまとめ上げているのである。
「このバンドには〈好きなように曲を書け〉というルールだけがあって、何をやっても自由なんだ。とにかく曲を作るうえで自分たちに制限を設けないようにしている。今回のアルバムは、流れを埋めるために作られたものもなかにはあるけど、ほとんどが自由に書かれた曲だよ。唯一方向性として話し合ったのは、〈良いものでなければならない〉ということだけだね」(マーク)。
「スタジオでは自分たちに一切制限を加えないようにしている。幸いにもいまの時代はいろんな機材や技術があるから、可能性は無限大なんだ。だから、これはライヴで弾けるか弾けないかとか、そういう余計なことは一切考えずに作っていったのさ」(ジョナサン)。
また、随所に響く女性ヴォーカルとのハーモニーも印象的だ。
「アルバムを作っている時、男女ヴォーカルによるバランス/アンバランスの部分にとても興味を持ったんだ。だから自分たちでは出せない声が、時に絡まるように、時にすべてを包み込むように入ってきたらおもしろいだろうなと思って採り入れたのさ。それに質感を変えてくれるから、曲にも展開を持たせられるし。しかもその声はメンバーのダメダメな男性ヴォーカルじゃ出せないからね(笑)」(ティム)。
一見アンバランスなものが絶妙に絡み合い、そこから生まれる統一感を持った奇跡のサウンド世界。これをひとつの言葉で説明するのはかなり難しい。しかしどの曲も、彼らの根っこにあるパンク魂、すなわちこれまでの常識を脱して新たなものを築き上げる精神が宿っている気がした。
「パンクとかハードコアはメンバー全員が成長する時に通った道なんだ。音楽をやりはじめたのもそこだし、そこを通して共感し合った部分が強かったし……根っこには常にその魂みたいなものが残っていると思うよ。ライヴで演奏する時も多くのエネルギーを出したいし、それが多ければ多いほど良いと思ってるし、だから自然と激しさみたいなものも出てくるんだろうね」(ティム)。
すでに次作の発表に向けた活動をスタートさせ、来年には本格的に世界進出していく予定とのこと。彼らのパレードが、新しい狂乱を生み出すに違いない。
PROFILE/パレーズ
ジョナサン・ブーレ(ドラムス/パーカッション/ヴォーカル)、ダニエル・カニンガム(ギター/ヴォーカル)、ティム・ジェンキンス(ギター/ヴォーカル)、マーク・スカーピン(ベース)から成る4人組。シドニーの高校で知り合い、2000年頃に前身バンドを結成。2008年に現在のバンド名となり、同年末にファーストEP『Parades』を発表。2009年には〈スプレンダー・イン・ザ・グラス〉をはじめとする地元の大型フェスに出演。また、12月にモデュラーからジョナサンがソロ・アルバム『Jonathan Boulet』をリリースするなど、知名度を上げていく。2010年4月にファースト・アルバム『Foreign Tapes』(Remote Control/Pヴァイン)を発表。12月2日にその日本盤がリリースされたばかり。
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年12月20日 14:16
更新: 2010年12月20日 14:16
ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)
構成・文/松永尚久