たむらぱん 『ナクナイ』
〈ふわふわ〉のなかから力強く響いてくる歌と言葉──自身の歌をより深化させながら、あらゆる〈楽しい!〉を豊富に盛り込んだ『ナクナイ』
たむらぱんの魅力とは何か? そう問われたらリスナーは何と答えるだろう? 〈メロディーが良い〉〈歌声が素敵〉〈粋なユーモア、変わった展開、耳にすごく残るフレーズが好き〉……さまざまな回答があり得ると思うが、おそらく多くの人に共通しているのは〈ふわふわしているけど、何かすごく胸に強く響いてくる〉というようなことではないだろうか。ニュー・アルバム『ナクナイ』は、彼女のそんな魅力を改めて噛み締めさせてくれる作品だ。
「〈自分って何?〉って改めて考えたんですよ。それで思ったのは、〈基本、答えを書かない、結論は出さない……っていうか出せない〉っていうこと。正しいことってよくわからないですから。でも、動かないでいるのは答えがわからないより怖い。みんな〈断言はできないけど希望を求めたい〉っていうところで動いて生きていると思うんです。答えがないから人生は回り続けるのかなと。グルグルと回りながら、結論にはいつまで経っても辿り着かない。でもそのループは同じ場所に戻っているわけではない。回りながら少しずつ上昇して進化しているような感じだと思う。私がよくイメージするのは、床屋さんのクルクル回る看板の感じ(笑)。答えがないのが良し、答えがなくてもこんなに楽しくできるんだ!っていうことを、私の曲を聴いた人も感じてもらえたら嬉しいです」。
規則正しく淡々と流れてゆく日々のなかで傷つき、激しく揺れ動きながらも、竹のようにしなりながら折れずに進む生命の輝きを浮き彫りにする“バンブー”、あるいは肩の力を抜いた時に見えてくるものについて歌った“ラフ”などに代表されるところだが、たむらぱんの音楽は一聴するとのんびりしたトーンでも、実はメッセージをリスナーの胸の奥深くにまで届ける。この持ち味を彼女は次のように的確に表現してくれた。
「純粋に楽しめて、押しつけがましくないのって、音楽として大事だと思うんです。私の曲のこの感じは、童話に近いのかなとイメージしています。さらっと読めるんだけど、実は教訓とか裏の意味もあるような感じの」。
本作のラストを飾る“とんだって”は、童話的なパワーがまさに表れている。〈飛んだって〉〈富んだって〉という二重の意味を含ませる言葉遊びを駆使しつつ、本来は純粋だったはずの理想や夢が、追求のプロセスのなかでいつの間にか目的を見失ってしまうことの切なさを投げかける曲だ。
「人間が進化するのは素晴らしいけど、良くないこともあるっていう。この曲も〈答え、結論、良い悪いは誰にも決められないんじゃないか?〉っていう私の考えの基本が出ていると思います。人の感情って簡単に割り切れるものではないんだよ、っていう」。
本作にはシングルが3曲、CMやTV番組などで使用されている曲が8曲収録されていることもあり、そのいずれかをどこかでふと耳にしている人も多いだろう。初出の新曲も含め、美しいメロディー、印象的なフレーズの宝庫となった『ナクナイ』は、楽しみながらさまざまなメッセージを発見することができる一枚だと思う。
「誰しも負けるよりも勝ちたいと思っているんだと思う。みなさんが抱えている〈何とかなってほしい〉っていう気持ちって、小さいきっかけで膨らんだりするのかなと。私も何かを作るんだったら、そういうきっかけができていますように!って思っています。〈やるぞ!〉っていうのではなくて、〈あれ? 何か……わりとやれそう〉みたいに思われると良いですね(笑)。そういうふうに気持ちを上に、良い方向に向かせるのが、私の思うエンターテイメント。そういうものを作れたら良いなと思うんですよね」。
- 次の記事: BACK PAGES
カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2010年12月22日 14:20
更新: 2010年12月22日 14:20
ソース: bounce 327号 (2010年11月25日発行)
インタヴュー・文/田中 大