インタビュー

日本初開催! NORWAY FOLKELARM IN JAPAN 2010──MUSIC FROM NORWAY

ELISABETH VATN、VALKYRIEN ALLSTARS、JOHAN SARA JR.
注目のノルウェー・アーティスト3組にインタヴュー!

北欧トラディショナル・ミュージックの新たな息吹を伝えるべく、毎年ノルウェーで開催されているフェスティヴァル〈フォルケラーム〉。今年から日本でも開催されることになった同フェスの第一回目には、ノルウェーの新進気鋭アーティスト3組が招聘された。


エリザベス・ヴァトン
まず紹介するのが、ノルディック・バグパイプ奏者のエリザベス・ヴァトンだ。オスロ出身の彼女はもともとクラシック出身。ピアニストとして音楽活動を開始したが、90年代初頭にはボスニアのアスラ(AZRA)というバンドにクラリネット奏者として参加。このバンドでのツアー中、滞在先のマケドニアでバグパイプと出会っている。

「マケドニアに行く前からバグパイプには興味があったの。ミュージシャンとしては新しい演奏に興味を持つのは当然のことだと思うし、そのなかでバグパイプに対して自然に興味を持つようになったの」

バグパイプはヨーロッパ各地で長年親しまれてきたが、それぞれによって構造や演奏方法は微妙に異なる。エリザベスが取り組んでいるのは、そのなかでも北欧独自のバグパイプのスタイルだ。

「ヨーロッパで言えば、ケルトと西欧と東欧という3つに分けられるの。それぞれの文化的背景によって楽器自体違うところもあるし、テクニック面での違いを挙げていけばキリがないぐらい。バグパイプ奏者だったら他の地域のパイプでもそれなりに吹けると思うんだけど、私もいろいろとリサーチしているところなの」

ジャズやロックのミュージシャンとも積極的にセッションを繰り広げているエリザベス。彼女はこう言う。

「伝統を忠実に守っていくことももちろん意味のあることだけど、私は楽器自体の可能性を広げていきたいと思っているのよ。例えば特定の音楽を耳にした時に〈これをパイプで演奏するにはどうしたらいいのかな?〉なんて考えたり。そういうことによって新しい表現が生まれてくると思うし」

 


ヨハン・サラJr

2組目に紹介するのは、スカンディナヴィア半島北部(ラップランド)で独自の生活習慣と文化を育んできた少数民族サーメの音楽家、ヨハン・サラJr。彼はシャーマニズム的側面も持つサーメの伝統音楽ヨイクをエレクトロニック・フィルターを通して表現し、ノルウェイ

国外でも高く評価されている人物だ。

10代の頃はパンクバンドで活動し、大学時代にはクラシック・ギターを学んでいたというヨハン。そんな時「ある日どこからか声が聴こえたんです。〈なんでお前はクラシックを勉強してるんだ? サーメの音楽をやるべきだろ?〉って」という啓示(?)から自身のルーツに基づいた音楽活動へとシフトしていくことになった。

「ヨイクは本当に学んでも学んでも尽きることがないぐらい深い音楽なんです。基本的には独学なんですが、ヨイクのミュージシャンに話を訊いたり、ラジオの素材を調べたり、独自に研究してきたんですよ。地元にはヨイク・マスターと呼ばれてる人たちもいるので、そういう人たちからの影響も受けていますね。私の考えとしては、サーメの音楽も発展していくべきだと思う。ただし、ベーシックなヨイクの文化を失ってもいけない。ヨイクには本当に独特の文化があるんだけど、若い人はどうしても西欧のものを中心に考えてしまう。私に言わせれば一番重要なのは呼吸法などのテクニック面で、それをキチンと学ばないことにはヨイクの何たるかも理解できないと思うんです」

ヨハンは「ヨイクを発展させること、そしてありのままのヨイクを伝えること。それが私のミッションだと思っています」と話す。

最後に紹介するのは、トゥーヴァ・リブスダッテル・シュベルツセン、ウラ・ヒルメン、エリック・ソリッズという3人を中心とするヴァルキリエン・オールスターズ。彼らが手にしているのは、ハルダンゲル・フィドルというノルウェー独自の小型フィドル。その軽快な音色にトゥーヴァのソウルフルな歌声が乗るのが彼らのスタイルだ。3人がハルダンゲル・フィドルを習い始めたのは7~12歳の頃だったという。


ヴァルキリエン・オールスターズ

「ただ、ノルウェーの若い人たちにとってフィドルは決して格好いいものじゃないの。私だって、学生になるまでトラッドをやってるなんて友達には言えなかったんだから(笑)」(トゥーヴァ)

彼らが出会ったのは15歳の頃。「友達として遊ぶようになったのが最初だった」(エリック)そうで、ほどなくしてオスロのアパートで共同生活を始めることになった。

「最初は遊びの延長のようなものだったんだけど、そのなかで好きなものをどんどん入れていった感じだね」(エリック)

「ハルダンゲル・フィドルはもともとソロ楽器なんで、それぞれの演奏者で全然プレイが違うのよ。クラシックのように決まったルールがあるわけじゃないし、そういう楽器だからこそ何を付け加えるのも自由なの。それがこの楽器の魅力だと思う」(トゥーヴァ)

「楽器の演奏スタイル自体とても自由だし、その意味ではジャズにも近いと思う」(ウラ)

現在同じメンバーでロックバンドもやっているという彼らのサウンドは、どこまでも自由奔放だ。そして、伝統から解き放たれたハルダンゲル・フィドルが奏でる音色は、オスロの酒場の風景を妄想させるような楽しさに溢れている。

「トラッドは知識がないと楽しめないものじゃないし、誰でも楽しめるものだっていうことをアピールしていきたい。ここ数年でトラッドを取り巻くノルウェイ国内の状況が変わってきてるしね」(トゥーヴァ)

伝統音楽/楽器の素晴らしさを現代的視点から表現する3組。その野心的な音楽世界は現在幅広い注目を集めつつある。彼らのような音楽家の動向を伝えてくれるであろう〈フォルケラーム〉の今後に大いに注目したい。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2010年12月28日 18:35

更新: 2010年12月28日 19:16

ソース: intoxicate vol.89 (2010年12月20日発行)

interview&text:大石始