Raúl Barboza
アルゼンチンとフランスのアコーディオンによる楽しき饗宴
ジャケット写真の二人のマエストロたちの笑顔が、この作品のすべてを物語っていると言っていいだろう。もちろん技巧的ではあるが、火花散るというよりは気のきいたおしゃべりを聴いているかのような演奏が続く。アコーディオン界のトップに君臨する二人の共演盤は、思わず頬がゆるんでしまうほど楽しい内容なのだ。
「特に何も決めずにスタジオに入ったんだ。譜面もほとんど無いんだよ(笑)。でも気心の知れた仲間たちとの演奏だから、とてもうまくいったね」
こう語るラウル・バルボサは、グアラニー族の血をひくアルゼンチン人。彼がパリに移り住んだのは87年だから、もう20年以上も前のこと。すでに本国では国内有数のアコーディオン奏者としてヒット曲もあり、確固たる地位を築いていたにも関わらず、あらたな可能性を求めて新天地に赴いた。そこで知り合った音楽家のひとりが、今回の共演者であるダニエル・コランだった。
「フランスに着いて間もない頃、ダニエルと出会ったんだ。彼には人間的にも音楽的にもどこか近いものを感じてね。それ以来ずっと友情が続いているんだ」
ダニエルは、〈ターボ〉というニックネームが付くほどの早弾きの名手。バンドネオンを演奏することでも知られている。もちろん、フランスでは誰もが認めるトップ・プレイヤーだ。そんな二人の友情をまとめたのは、アンリ・サルヴァドールの専属ギタリストでもあったプロデューサーのドミニック・クラヴィク。彼の采配は大成功だった。選曲も非常にヴァラエティに富んでいて、《枯葉》や《人生》などのシャンソンの名曲、《巴里祭》や《ぼくの伯父さんの休暇》のような映画音楽、フランス風ワルツのミュゼットまで様々。そして、ラウルのトレードマークでもあるアルゼンチン特有のリズム〈チャマメ〉も、このアルバムのポイントになっている。
「チャマメは、右手は二拍子で左手は三拍子というポリリズムなんだ。でも時々演奏中に左右が逆さになったりする。こういうものはフランスにはないんだよ。逆に私がフランス人になりきってミュゼットを弾いても、リズムのニュアンスがどこか違う。だから、フランスの曲はダニエルに先導してもらったのさ」
アルゼンチンとフランスのアコーディオンの細やかな奏法のニュアンスを楽しめるのはもちろん、インスト曲とシンガーが参加した歌モノとのバランスもよく聴きやすい。アコーディオンの魅力を伝える入門編としては、これ以上のものは無いといっても過言ではない。
「テクニックより楽曲の持っているエスプリを表現したかったから、そういう意味でもとても成功したと思うよ。アルゼンチンとフランスの音楽がうまく混ざり合っているしね。異国にいると故郷が恋しくならないかって? 私の前世はきっと日本人なんだ。だから日本にいればホームシックなんてまったくないんだよ(笑)」