インタビュー

MATT AND KIM 『Sidewalks』

 

 

ロックのフォーマットから離れれば離れるほど幸福とばかりに、自由な活動を続けるマット・アンド・キム。服を脱ぎながらNYを闊歩する“Lessons Learned”の衝撃PVも記憶に新しいし(エリカ・バドゥも感銘を受けて同様のPVを製作)、たった2人だけで繰り広げた〈フジロック〉での楽しいライヴを覚えている人も多いだろう。

そんな自由さに裏打ちされたエレクトロ・ポップ~ポスト・パンクが支持され、2作目にあたる2009年の『Grand』は50万枚を記録するロング・ヒットに。ゆえに取材に応えてくれたマット・ジョンソンは、ニュー・アルバム『Sidewalks』を作るうえで少しだけプレッシャーを感じていたことを認める。とはいえ、美術学校で出会い、楽器もほとんど弾けないまま自分たちが聴きたい曲を作りはじめたという彼らの場合、そのモチヴェーションの起点だけは今回も揺らがなかったようだ。

「意識していたのは『Grand』のレコーディング時と同じゴールかな。つまり、最初から最後まで、ひとつのアルバムとして聴ける作品を作りたかった。最近はアルバムを通して聴くファンが減ってきているかもしれないからね。だからこそ、例えば今作に収録された“Northeast”は、レコーディングを始めて6か月目くらいに後から入れたんだ、アルバムとしてのペースを整えるためにね。最近のアルバムって、シングル曲が目立ってて、全体の流れを意識してないものも多い気がするから」。

その“Northeast”、ゆったりしたテンポとバスドラの響きを軸にしたシンプルな作りながら、ラストにエレクトロ・ポップへとたゆたうように姿を変えるおもしろい構造をしている。あたかも、今作での彼らの変化を象徴しているかのようだ。つまり、ヒップホップからロック、ポップスなどさまざまなジャンルを横断するリズム・パターンや、楽器の音色を組み合わせる巧みな曲作り、そしてもはやローファイでは括れない緻密な(とはいえ過剰になりすぎない)音構築。しかも、近年のUSインディー・ロックにありがちなリヴァーブやフィードバック・ノイズの多用はなく、クリアな質感の音であることも作品の新鮮さに貢献している。また、前作までは自分たちですべてを手掛けていたが、今回はベン・アレン(アニマル・コレクティヴなども担当)をプロデューサーに迎え、「3つくらいのスタジオを使って」制作したことも、アルバムの仕上がりに影響している模様だ。

「僕たちはポップスもヒップホップも好きだし、いろんな要素を良い流れでまとめるように意識したよ。自分たちが好きだったアーティストをプロデュースしている人と今回レコーディングできて、嬉しかったな。お酒を持ち込めるロフトでのライヴのような、そんなヴァイブなんだよね。僕はステージが明るくって客席が暗いライヴっていうのが好きじゃないし……。で、そもそも大事なのはメロディーなんだよ。アーバン・ミュージック系のビートがあろうとも、それでもメロディーがクリアなのがいちばん大事じゃないかなって思う」。

さて、アルバムのタイトルは〈歩道〉と付けられた。これはキム・シフィノと2人でさまざまな言葉をリストアップして決めたらしい。

「これがいちばんピンときたんだ。僕はバーモント育ちなんだけど、バーモントにはサイドウォークがないんだよ。でも、NYにはいっぱいある。僕たちもよく道端に座って過ごすんだ!」。

そういえばキムが手掛けたジャケットも、色彩や構図はファースト・アルバム『Matt And Kim』からの連続性を思わせる。NY3部作みたいなもの?——そう問うと「ううん、今後のアルバムのアートワークにも繋がると思うよ」との答えが。肩に力を入れずにNYと自分たちを映し続ける彼ららしい、〈いま〉が本作には詰まっているというわけだ。

 

PROFILE/マット・アンド・キム

マット・ジョンソン(ヴォーカル/キーボード)とキム・シフィノ(ヴォーカル/ドラムス)による男女2人組。2004年初頭にNYの美術学校で知り合い、バンドを結成。精力的なライヴ活動を展開しながら、2005年にファーストEP『To/From』を自主で発表する。2006年にはファースト・アルバム『Matt And Kim』をリリースし、〈ロラパルーザ〉など大型フェスにも参加。2009年1月に2作目『Grand』をフェーダーから発表。同作からシングル・カットされた“Lessons Learned”のPVが話題を集め、一気に知名度を上げる。2010年には日本デビューも果たし、〈フジロック〉で初来日。このたびニュー・アルバム『Sidewalks』(Fader/KSR)をリリースしたばかり。

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掲載: 2011年01月26日 14:10

更新: 2011年01月26日 14:10

ソース: bounce 328号 (2010年12月25日発行)

インタヴュー・文/妹沢奈美