高柳未来
爽やかな演奏が、マンドリンの魅力に耳を開く。
日本人には演歌系サウンドの〈かなめ〉としてもお馴染みだが、その歴史はルネサンス期まで遡り、民族の壁を越えて親しまれている楽器、マンドリン。実は意外な人物が素敵な作品を書き残している…そんな発見と出会いが詰まった楽しいCDが〈レボリューション〉シリーズ最新作として登場。演奏は名門、大妻中高マンドリン部時代にコンサートマスターも務めた新星、高柳未来。
「独奏の経験があまりなかった上に、初録音の楽曲も多くて全くの手探り状態でしたが、今はやり遂げた充実感でいっぱい。大学生の時にお話をいただいてから、途中に〈就活〉等も挟んで結構時間もかかったし、自分の人生が詰まった1枚です(笑)」
ベートーヴェンによる、それぞれ趣向の異なる珠玉の4篇を始めとして、幼い頃はマンドリン少年だったというパガニーニの無伴奏曲3篇も非常に興味深い。
「当時とは弦の配置も異なり、特にアルペジオが弾きにくくて苦労しましたが、やはりベートーヴェンらしい美しさに溢れていますね。パガニーニの作品は超絶技巧もなく、シンプルで可愛らしいのが面白いです」
モンティの《チャールダーシュ》のオリジナルがマンドリンだったという驚きに加え、続篇とも言うべき第2番を世界で初めて収録しているのにも注目したい。
「2番は最初からヴァイオリン用に書かれ、より凝った作りになっていますが、情感に満ちた旋律が耳に残ります。これを機会にもっとポピュラーになって欲しい」
近年は出身地の前橋市が主催するマンドリンのコンクールもあって注目を集めているが、詩人・萩原朔太郎の遺した独奏曲《機織る乙女》の正式な録音もこれまでになかったものだ。
「マンドリンを愛した朔太郎の自筆譜に触れられたのは貴重な体験でした。パタパタと機を織る情景が浮かんできて、最後に〈オチ〉も効いた茶目っ気のある作品です」
フラメンコの情熱と哀愁が伝わる《ソレア》、ギリシア風の《東洋の夢》、バラライカ的な《モスクワ》、そして《浜辺の歌》で知られる成田為三の《野崎村》からは三味線の響きが感じられる。
「民族音楽の特徴を採り入れても、それにちゃんと応えてくれる。私にとってはヴァイオリン以上に表現力豊かで可能性を秘めた楽器です」
鋼鉄の弦を直に弾くために、慣れるまでは出血も絶えないという。ジャケット写真も可憐な、彼女の演奏をぜひ生でも聴いてみたいものだ。
「そんなに大きくないし、形もまるくて、女性にもぴったりな楽器だと思いますが、演奏は決して楽ではないですね。でもその苦労を悟られずにあくまでも優雅に…白鳥が水面下で必至に足を動かしているのを見せないように弾くのが楽しい。バレリーナの心境です(笑)」
高良仁美(P)の好サポートもさりげなくひかる1枚。