インタビュー

Esperanza Spalding

グラミー受賞記念掲載。エスペランザ・スポルディング インタヴュー(2008年8月)

「私の作曲のサウンドをとらえたかった」

24歳という若くチャーミングな話題の女性ベーシスト/ヴォーカリストのエスペランサ・スポルディングが、『エスペランサ』で日本デビューを果たす。史上最年少の20歳でバークレー音楽学院の講師となった超実力派だが、ベースを弾きながら歌もこなす彼女の音楽はジャズにブラジル音楽やソウルなどの影響をまじえたもので、ジャズ・ファンだけでなく、幅広い層にもアピールするはずだ。

エスペランサ(西語で「希望」)は5歳からヴァイオリンを始め、15歳でベースに出会った。

「私には簡単そうに思えたのよ。もちろん本当はそうじゃないけどね。でも、そのときにはとてもしっくりして、楽器として馴染みを感じたの。そしてベースという楽器の概念にのめりこんだ」と言う。最初に大好きになったベース奏者はリロイ・ヴィネガー。『リロイ・ウォークス・アゲイン』を何度も聴いて彼の音の弾みを感じ取ろうとした。私の演奏にもっと彼のグルーヴがあればいいんだけど。スラム・ステュアートのミルト・ジャクスンとの録音もよく聴いたわ」

バークレーでパット・メセニーから「君にはXファクター(未知の要因)がある」と声をかけられた逸話は今や有名だ。

「その“Xファクター”が何かを明らかにするのは私の責任じゃないわ。だって、私が言ったんじゃないもの(笑)。彼とのその短い会話は“やり続けなさい”という助言として受け取った。すごい励ましになったから」

作曲家として影響を受けた人を訊いてみた。

「誰の影響が私の音楽に現れているかを言うのはむずかしい。例えば、私のお気に入りの作曲家/編曲家はウェイン・ショーターとスティーヴィー・ワンダーの2人だけど、私の音楽はそのどちらにも似ていないと思う」

確かにショーターの影響は大きいようで、アルバムの1曲目は彼の『ネイティヴ・ダンサー』と同じく、ブラジルのミルトン・ナシメントの《ポンタ・ジ・アレイア》だ。

「ブラジル音楽には現代の音楽に見つけるのがむずかしい誠実さと美しさがある。多くのブラジルのパフォーマーと作曲家は脆弱で素朴に聞こえることを恐れない。それが私にとってはあの音楽で最も素晴らしい特徴だわ」

06年のアルバム『Junjo』は、彼女がまとめ役ではあったが、あくまでトリオの作品だったと強調する。それに対して『エスペランサ』は彼女自身の明確なコンセプトで作られた。

「私の作曲のサウンドをとらえたかった。頭の中に既に聞こえている特徴的なサウンドに命を与えたかったのよ。そして、多くの人たちがそれらの曲を知ることで、結果的に私という音楽家を知ることができるようにね」

音楽の道に進むと決める前は、政治学を勉強して世の中を良くする力になりたいと考えていたそうだが、今は音楽を通して世界に何を伝えようとしているのだろう。

「世界が必要とする何を伝えられるかはまだわからない。でも、ここまでは一生懸命働き、聴衆に美しい音楽を届ける努力を無欲にしてきた人というイメージを伝えてきたと知っているわ」

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年02月22日 17:34

更新: 2011年02月24日 20:27

ソース: intoxicate vol.75 (2008年8月20日発行)

interview & text : 五十嵐正