インタビュー

SISTER JET 『LONELY PLANET BOY』

 

よりデカく、よりパワフルに――甘酸っぱいナンバーで胸キュンさせてきた彼らが、何やらスケールアップしてきたぞ! バンドの理想の姿を現実化させる新たな一歩!

 

 

課題は〈ライヴ感〉

ガレージ的でラフな演奏と、甘い感触のヴォーカルが織りなす人懐っこいグルーヴ。それは、例えばストロークスやリバティーンズらによる2000年代における英米のガレージ・ロック・リヴァイヴァルと共振しているような印象を与えてくれたものだったが、ニュー・アルバム『LONELY PLANET BOY』はあきらかにそこから次なる新たなパラダイムへとシフトしていることを告げた一枚だ。そう、SISTER JETがいま、変わりつつある。

「いままで〈ライヴはいいけどアルバムは……〉とかって言われることも多くて、何とかライヴの感触をスタジオに持ち込みたいなあって思っていたんですよね」(ワタルS、ヴォーカル/ギター)。

「実は長いこと感じていたんですよね。でも、なかなかそれが再現できなくて……。いままでは単純に経験も技術もなかったしね。テストではいい点だったのにどうも本番はダメだ、みたいな(笑)」(ケンスケアオキ、ドラムス)。

ライヴでの圧倒的なエネルギーが武器の彼らも、スタジオ作品はメロディーがポップであるがゆえにその馬力がなかなか伝わりづらい。彼ら自身、スタジオでのレコーディングに対してそんなジレンマを感じていたようで、今回のアルバムに対しては最初からそうした〈ライヴ感〉がまずいちばんの課題だったという。

「単純にライヴをやりまくったんですよ。2010年はツアーやって録音してフェス出て録音してまたツアーして……みたいな。ライヴをたくさんやるためにそうしてきたんですね。それがレコーディングに自然に反映されて良かったのかなと思います。あとは、お客さんに語りかけるように歌ったり、ギターを抱えて歌録りしてみたり(笑)。そういう工夫もしましたね」(ワタルS)。

「うん、僕も革ジャンを着てレコーディングしました。気分も重要ですからね。レコーディング・エンジニアの方っていうのが体格もいいすごく大らかな感じの人だったんですけど(笑)、それが音に出たんじゃないかって気もします。太くて生っぽくてロックな音。昔から夢見ていた音が出せたって実感がありますね」(ショウサカベ、ベース)。

その結果、ライヴで叩き上げられてきたインディー・バンドよろしくしっかり腰の据わった演奏を聴かせるようになったのが間違いなく大きな成長。そこにはプロデューサーとして、これまでにTHE COLLECTORSやthe pillowsなども手掛けてきたSALON MUSICの吉田仁による、生音をデフォルメしたサウンド・プロダクションも奏功したようだ。とはいえ、今回のアルバムはライヴ・バンドっぽさが強調されただけではない、これまでになくコンテンポラリーで洗練されている印象もある。ロングウェイヴ、キラーズ、ヴューといったバンドが今回の音作りのうえでリファレンスになっていたそうだが、個人的には、例えるならウィルコあたりの生々しい躍動感や、ニール・ヤングの持つずっしりとしたヒューマニズムにも似た感触を体感できるようになったのが嬉しい。

「UKっぽいって言われることが多いんで意外です。でも、嬉しいですね。実際、僕らはいまアメリカの音楽とかも聴いているし。向かっているのもキングス・オブ・レオンみたいな〈大きいロック〉なんですよね」(ショウサカベ)。

「歌詞にも出てますもんね。“マギーメイ・ブルース”とか“かもめのジョナサン”とかね。確かにいまの僕らはライヴがちゃんとできるアメリカのアーティストに影響されることが多いんです。ジョニー・キャッシュがいま僕のアイドルですからね。音作りの変化と共に、僕ら自身がどういう曲を作って伝えていきたいかの趣味もそうやって変わってきたからなのもしれない。だから、それが言ってくれたようなアメリカのバンドっぽい音に出ているのかもしれないですね。ただ、僕はイギリスには何回か行ってるんですけど、アメリカにはまだ一度も行ったことがないんです」(ワタル)。

 

大きなステージでどれだけ見せられるか

今回のアルバムには至るところにアメリカの原風景を綴ったようなリリックが散見できる。具体的な土地の名前も出てくれば、荒涼とした景色が描かれた曲もある。だが、それらはあくまで想像上のもの。あくまで〈まだ見ぬアメリカ〉だ。しかし、その想像力こそがSISTER JETをここにきて大きく成長させたのではないかと思う。情報が何でも簡単に手に入る時代、みずからのイマジネーションだけで音楽と向き合うことなどなかなか難しい。それでも彼らはあえて、そうした不自由さのなかの自由な発想に展開のカギを求めた。

「それはありますね。そうなると、キングス・オブ・レオンもそうだけど、U2のような大きな存在感を放つバンドがどんどん魅力的になってくるんですよ」(ワタル)。

聞けば、「結成当初はいかに斬新なアレンジをするかを考えていた」(サカベ)そうで、一曲作るのに半年ほどを費やしていたという。だが、「アレンジに凝ってもお客さんに伝わってないという実感があって(笑)。もっとストレートな曲を書いていこうと思った」(サカベ)ことをきっかけに彼らの曲作り、ひいてはロックンロールに対する価値観が少しずつ動いていった。言ってみれば小手先で面白味を出すのではなく、もっと大きな目線、豊かな心持ちで曲を紡ぎ上げていく包容力。いまの彼らのモチヴェーションになっているのは間違いなくそうした大らかな姿勢だろう。だから、彼らは世界を代表するビッグネームのU2を大まじめに肯定する。そうした意識が見事に投影されているのがアルバムのオープニングを飾る“SAY YES”だ。

「やっぱりフェスとかに出て演奏すると余計にそう感じるんですよね。大きなステージでどれだけ見せられるかって」(ワタル)。

「2000年代以降のバンドのサウンドって、技術の発達で複雑なことをしなくても伝わるようにはなったと思うんですよ。90年代ってドラムとか音がモコッとしていたことが多かったんですけど、いまはストレートに演奏して伝わっていきますからね。そういうのが曲作りの姿勢の変化にも出ているような気がします」(アオキ)。

「いまはシンガロングできる曲をたくさん書きたい。それを大きな会場でみんなといっしょに歌うことが夢です」(ワタル)。

そう言って話してくれたのは、やはりU2の2002年に行なわれた〈NFLスーパー・ボウル〉のハーフタイム・ショウにおけるパフォーマンスだ。

「同時多発テロで亡くなった人の名前をボノが読み上げて祈って、そして自分の上着の内側をハラリと見せたらそこには星条旗がある!というあの場面! あれを観てダーッと泣いてしまったんです。あんなことが自分たちにもできればいいなと思いますね」(ワタル)。

 

▼関連盤を紹介。

左から、キングス・オブ・レオンの2010年作『Come Around Sundown』(RCA)、ジョニー・キャッシュのベスト盤『Wanted Man: The Johnny Cash Collection』(Sony)、U2の2009年作『No Line On The Horizon』(Interscope)

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掲載: 2011年02月25日 14:24

更新: 2011年02月25日 14:24

ソース: bounce SPECIAL (2011年1月25日発行)

インタヴュー・文/岡村詩野