Hakuei Kim
「ジャズは様々な音楽、文化をつなげる不思議な道具」
ハクエイ・キムほど不思議なジャズのニュー・ジェネレーションはいない。現在35歳だが、これまでの人生のほぼ1/3をシドニーで過ごしている。京都生まれで、5歳でピアノを始め、高校のときヤマハのコンテストでベスト・キーボード奏者に選ばれるほどの実力を備えたが、高校卒業後、語学留学でオーストラリアに向かう。実はその当時ハクエイの頭に渦巻いていた音楽は、エマーソン、レイク&パーマーだった。そんなハクエイの前に突然現れたのがマイク・ノックだ。偶然、完全にトランス状態に入ったマイク・ノックの演奏を眼前で見てしまい、こんな世界があるんだと一気にジャズにのめり込んだ。それから4年間ノックの元で勉強、結局11年シドニーで暮らした。
「あのときはほんとに衝撃でした。トランス状態のノックの口から涎が出てるんですよ。ノックの指導も変わっていて、完全に明かりを消した真っ暗の状態で、さぁ何か弾いてみろとか、そういうレッスンがたくさんあった。たとえばですが、音楽は音楽として考える人と、音楽は人生とかの延長にあると考える人があるように思うんですけど、ぼくは以前は前者だったんだけど、演奏で自分と向き合っていると、少しずつ音楽が自分の人生の一部のように感じるようになったんです」
そんなハクエイが帰国し、日本のジャズ環境と出くわしたとき、違和感を覚えたのではないだろうか。
「確かに、ジャズはこう演奏するんだとか、先輩からいろいろ助言を頂きましたが、そうしたある種の伝統的なジャズへのこだわりは、日本だけではなく世界中にあると思います。ただ、ジャズはアメリカの文化で、自分たちのものじゃないというどこか宙ぶらりんな状態から抜け出そうという意識も世界中にあって、それがオーストラリアはとくに強くて、ぼくはジャズじゃない、即興演奏家だという人も多いですね。ただ自分は、ジャズは様々な音楽、文化をつなげる不思議な道具をもっているから、大きな枠としてジャズでもいいと思うんです」
そんなわけで、オーストラリアでは、様々な国から来たミュージシャンと共演し、そうした経験もハクエイの音楽の土台になっている。スタイルよりもどこか共感するものがあれば、ジャズはつないでいく。もっとも、たくさんのミュージシャンとの出会いの楽しさだけが目的ではない。むしろ、重要なのはその出会いの深さのようなものだ。
今回のメイジャー・デビュー作『トライソニーク』の中心はそこにあるようだ。ベースの杉本智和、ドラムの大槻“KALTA”英宣とのこのトリオは、互いに通じ合える仲間と隊列を組んで、前へ、前へと走り出したような演奏である。マイク・ノックと出会って知った音楽のトランス状態に入り込む。それぞれの音のイメージが、世界を作り、そこから物語が始まる。強い想像力こそ目標なんですとハクエイ・キムが言った。
『アルバム発売記念ツアー』
3/25(金)静岡・ライフタイムを皮切りに、4/5(火)ビルボードライブ大阪、
4/10(日)ビルボードライブ東京など全国8ヶ所で開催
http://hakueikim.jp/