インタビュー

Erin Bode

セントルイス発ジャズ経由。新世界のための組曲

「文化や芸術への意識が高く、ドイツ系や北欧系の人たちが多い。そういったことが独特の生活環境を作り上げています」と、エリン・ボーディーは、故郷ミネソタ州について語る。湖に囲まれ、厳しい冬を楽しむミネソタでの生活が彼女の音楽はもちろんだが、考え方や生き方にも影響をもたらしているとも加えた。ただし、それに気づいたのは、故郷を離れ、ミズーリ州セントルイスへと移ってからのことらしい。

ジャズにのめり込んでいったのは、そのセントルイスに出てからだ。「大学ではクラシックのボーカル・パフォーマンスを専攻していましたが、自分なりの解釈で、自分なりの感覚で歌う。日によって歌や演奏が変わる、そういう自由への憧れがありました。そして、それをジャズは受け入れてくれる。そこに魅力を感じた」と。

が、それも彼女にとっては最初の一歩に過ぎなかった。新作『フォトグラフ』を聴けばわかるが、ジャズを軸にしつつも、エレクトリックとアコースティックを巧みに共存させたり、ワールドミュージック的なものを含めて多彩なリズムを組み込んだり、新しい部屋の扉を開け続け、その度に見晴らしのいい景色を手に入れていった。

「ジャズの愛好家には、ジャズの要素を満たしていないと言われたり、何かひとこと言ってみたくなる音楽かもしれません。でも、それで私は良いと思っています」。二人の大切な仲間がいることも心強い。一人は夫でもあるベース奏者のシド・ロドウェイで、もう一人は一緒に曲も書くキーボードのアダム・マネスだ。「彼らとは一緒に成長していることに価値があります」

こうやって新しい冒険を厭わない彼女だが、だからと言って肩肘張ったり、気負ったりしたところが一切ない。普段着のままの自然体、そこが彼女の音楽に豊かさや潤いをもたらしている所以だ。

「昔から大好きだった作品に、(モデスト・)ムソルグスキーの『展覧会の絵』というのがあります。展覧会に飾られた複数の絵のように、いろんな曲でひとつの音楽が組み立てられていく、その考え方が素敵でした。今回のアルバムが出来たとき、それぞれの曲が、独立した絵のようでそれを思い出しました。《フォトグラフ》という曲もあったので、絵と写真を重ねて、このアルバムにはこのタイトルがいいなあと思ってつけました」

最後に、他の人たちの音楽と決定的に違うと思う点をあげてもらった。「難しい質問ですね」と笑みをこぼしながら、こんな答えが返ってきた。「セントルイスという生活環境とそこで活動していることが、音楽に個性をもたらしてくれていると思います。競争の激しいニューヨークのような大都市だと、流行っているものにどうしても触れてしまう。情報が多いので、否が応でもなんらかの影響を受けてしまいます。でも私たちが影響を受けるのは、自分たちで選んだ音楽に限られますから」と。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年03月01日 18:25

更新: 2011年03月01日 18:31

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 天辰保文