Manu Katché
ジャズ界でもっともロックなドラマー/ロック界で最もジャズなドラマー
フランス、ドイツで毎週日曜日に放映されている音楽番組『One Shot Not』は、スティングといった大物から、ブルーノ・マーズといったヒップな若手までジャンルを問わずゲストに招いてたっぷりと生演奏を聴かせる番組だ。その企画立案者であり、番組のホストでもあり、ときにゲストとステージに立って見事なドラムも披露するのは誰あろうマヌ・カチェその人だ。「ロック界で最もジャズなドラマー」、あるいは、「ジャズ界でもっともロックなドラマー」として確固たる地位を築いてきた彼は、その広範な人脈を駆使して、いまや欧州とアメリカその他のシーンとを橋渡しするキーパーソンとして注目されている。
「この番組のおかげもあって普段聴く音楽もどんどん幅広くなっているよ。エレクトロやインディ・ロックだって大好きだし。そういう意味で、ぼくは自分を規定することはしないんだ。自分をジャズミュージシャンともロックミュージシャンとも思ったことはないよ」
【ECM】から発売された第3作目のリーダー作『サード・ラウンド』は、多彩なネットワークを駆使しながらも、マヌ自身の志向性を十全に表出したアルバムとなった。バンドのメンバーは一新され、ベースに80年代よりマヌの盟友として活躍するピノ・パラディーノ、ピアノにはスティング のバンドで、故ケニー・カークランドの後釜として抜擢されたことでしられるジェイソン・リベイロ、ノルウェージャズシーンにおける最も柔軟なサックス奏者のひとり、トーレ・ブリュンボルグといった、ヴァーサタイルなプレイヤーが脇を固め、また、ボーカリストとして「トランペットをもったリッキー・リー・ジョーンズ」とでも言うべき才媛カミ・ライル(あのNRBQのジョーイ・スパンピナートのご夫人である)が抜擢されているのも新鮮な驚きだ。出来上がった音は、さしづめグルーヴィーで歌心に溢れた室内楽とでも言うべきものとなった。
「ジャズは大好きなんだけど、本来的には、ソロを延々と回し続けるようなことは実は好きじゃないんだよ。音楽家としてのぼくは、かなり構築的なほうなんだ。今回のアルバムもそうなんだけど、ドラム以外のパートはすべてアレンジされていて、即興はほとんどない。加えて、作曲するときは、ぼくは毎朝同じ時間に決まった時間だけ作業するっていう日課を課していて、ある意味、スポーツのトレーニングのようなやり方をするんだよね」
過去2作にくらべるとサウンドはより人懐っこくレイドバックした気分に溢れている。気心の知れたなんでもござれの猛者たちとの共演の賜物でもあるが、マヌ自身は、自分のディレクションや判断がより明確になってきたことの証かもしれないねと語る。異ジャンルを苦もなく横断する万能ドラマーには、いずれ、かのTV番組で見せるようなゲスト満載の賑やかポップアルバムをつくってもらいたいとも思うけれど、一方で、マヌには寡黙で緻密な音楽家としての一面もあることを決して忘れてはいけない。マヌが一番好きな音楽家は実は「サティ」なのだそうだ。