Vittorio Grigolo
ソニー・クラシカル専属第1弾となるオペラ・アリア集!
ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウスで話をきいたのは去年の7月上旬、マスネの『マノン』の騎士デ・グリューを歌ってロイヤル・オペラにデビューした直後だった。艶やかなアンナ・ネトレプコを相手に、極上の甘い声とハンサムなルックスで、純で頑固一徹の愛に生きる青年そのものになりきって空前のセンセーションを巻き起こした。「『マノン』は今までやってきた事の頂点に立つものだった。この役を知り尽くしているアンナと共演できて、僕はシンデレラみたい」
熱弁を振るう時の感情の高まりはまさにイタリア的だ。「ステージに立ったら僕のすべてを与えてしまう。僕の愛、僕の人生、それは深い感情だ。だから終るとくたくたになって充電が必要になるんだよ」
ロンドン滞在中はハイドパークでリモコンの巨大ヘリコプターを飛ばしたり、野外プールで泳いだりするのだそうだ。
少し前に『イタリアン・テナー』を録音したところだ。「このアルバムを作る機会をずっと待って今まできました。CD1つにしても自分の一部が永遠に残るから作る、やっとそう思える時期が来たんです。イタリアの曲は僕には歌いやすくて、窓を開けると美しいパノラマが広がってるような気分になる。僕の一番身近な作曲家であるヴェルディ、プッチーニ、ドニゼッティを選びました。アリアの一つ一つが僕の違う面を出している。たとえば《しあわせに満ちたあの日々》(プッチーニの『妖精ヴィッリ』)とか、《ああ!そうだ。よくぞ申した…すべてが微笑んでいた》(ヴェルディの『海賊』)とかね。単にきれいだから、有名だからってアリアを選んだのではないんだよ」
グリゴーロが本格的に世に出るきっかけは、22歳でムーティ指揮の《第九》を歌ってスカラ座にデビューしたことだった。最年少のテナー独唱だった。しかしオペラ初出演はその9年前、システィーナ礼拝堂聖歌隊に在籍中、ローマでパヴァロッティがカヴァラドッシの『トスカ』で羊飼いの少年を歌った時だ。 「子供心にただびっくりした。パヴァロッティと一緒だもの。ずっと舞台袖で彼を聴いていた。彼も僕をこれからも聴いてくれるって」
来シーズンにはロイヤル・オペの『ファウスト』と『ラ・ボエーム』で歌う。ルドルフォはニューヨークのメットでも歌う。「いつかフランスのヒーローも録音したいな。騎士の役なんて情熱的でしょ」
グリゴーロは芝居がうまい。演劇の訓練でも受けたのか。「いや、自然にそうなるんだよ。僕のハートから出てくるからね。感情を訓練することはできないでしょ。実際に愛や死や、痛みや怒りを体験しなければね」
まだ30代前半の若さで、それをすべて体験したわけ?「そうだよ。若い頃から(まだ若いのに!)、音楽だけでなく、とにかくいろんな仕事をやって人生経験を積んできた。それがよいワインみたいに歌の糧になるんだよ」