インタビュー

Janis Ian

photo:Akane Suganaga

「良い曲を書き続けるには、才能と技巧の両方が必要ね」

67年に16歳でデビューしただけに、ジャニス・イアンの活動歴は既に40年を超える。1月の来日に合わせて日本のみのヒット曲も追加して発売された『ベスト・オブ・ジャニス・イアン』は本国では08年の自伝刊行に合わせて編集された2枚組回顧アルバムで、ジャニスの全体像を掴むには最適だ。これを聴くと、彼女の作品が幅広い題材に取り組んできたと改めてわかり、その勇敢さと正直さに敬服するが、ジャニス自身はこう言う。

「特に正直であろうと考えてはいないわ。確かに《17歳の頃》は正直であることを意識したけど。私が聞いて育ったフォークやジャズの伝統を受け継いだのよ。現実を描く、そこで起こっていることを歌う。人生の物語なの」

ジャニスはオデッタやニーナ・シモン、ジョーン・バエズに刺激され、若くして曲を書き始めた。『ベスト・オブ』では13歳のときの録音も聞ける。その持って生まれた才能はグリニッチ・ヴィレッジでさらに磨かれた。

「私は皆よりも7歳から10歳は年下だったわね。素晴らしいるつぼだった。デイヴ・ヴァン・ロンクのような人からジャズやクラシックのミュージシャン、本物のブルーズマンのB・B・キングまでが混ざり合っていた。ヘンドリクスやジョプリンとも親しくなった。あらゆる音楽があって、ジャンルなんて気にしなかったわ」

 ジャニスの幅広い音楽への興味は70年代のヒット・アルバムにも窺え、ラテンやジャズの影響がある一方で、ジョルジオ・モロダーとの共作まであったりもする。

「ジョルジオがドナ・サマーの素晴らしいレコードを作っていたからよ。同じ頃にナイル・ロジャーズともやったわ。流行のサウンドを取り入れてヒットを出そうとしたわけじゃない。それが興味深い音楽だったからよ。ヒットがたくさん生まれた時期には簡単にも思えたけど、売れそうな曲を書くことは得意じゃないし、私のやるべきことじゃないと思う。私の才能はそこにはないの」

近年のジャニスは長年の経験を若いアーティストたちに伝授する立場にいるが、彼女自身も80年代に著名な演技指導者のステラ・アドラーに師事した。

「主に脚本の解釈を勉強した。女優をめざしたわけじゃない。私はすごく下手な役者なの(笑)。ソングライティングに役立ち、パフォーマンスについて学べると思った。バレエのレッスンを受けたのも同じ。私は若くして成功したので〈ジャニス・イアン〉でいることはあまりに簡単なの。異なった訓練のおかげで、自分のやっていることをもっと深く理解できるようになったわ」

ソングライティングについて、ジャニスはこう語る。

「才能がないと、良い曲は書けないけど、技巧を磨かないと、書き続けていけない。才能と技巧の両方が必要ね。それでも良い曲を書ける日もあれば、書けない日もある。心身が健康であることは大事と思うけど、キース・リチャーズを見ると、何も言えなくなるわね(笑)」

1974年〜2006年のオリジナル・アルバム14タイトルも紙ジャケット&高品質Blu-spec CDで再発。

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年03月04日 11:45

更新: 2011年03月10日 17:57

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 五十嵐正