インタビュー

Emi Meyer

原石の詰まった鞄とともに、まだ見ぬ場所へ

才媛という言葉がこれほど似つかわしいひとはいないだろう。しかしこの3月に24歳になる彼女を媛というムスメっぽい漢字で形容したくはない。新作のジャケットは、どこかの駅の待合室だろうか、新しい町へ旅立とうとしている彼女のポートレイトがフィーチャーされている。美しい素足も目に眩しいが、重要なのはその足元に置かれたスーツケースだ。思い出も希望も、後悔も再生の意志も、すべてが詰め込まれた石のように重い鞄。その重さを砕き、溶かし、なめすように、穏やかなピアノのフレーズが流れてくる。1曲めの《Master Piece》というその曲は、世界を断片ではなくまるごと大きな作品としてとらえたい、という歌詞を持つが、その歌詞以上に、哀しみも喜びも苦みも甘さもたっぷりと含み込んだ声そのものが曲の主題を浮かび上がらせる。ブルージーで若干レイジーな発声も好ましい。才能のある娘というだけでは、このような味わい深く情感のこもった、そのくせさっぱりとした歌世界を紡ぎ出すことはできないだろう。

エミ・マイヤーはアメリカ人の父親と日本人の母親とのダブル・ブラッド。京都生まれだが、シアトルで育ち、今もそこを拠点とする。2009年4月にほぼ全編英語の『キュリアス・クリーチャー』でアルバム・デビュー。2010年3月の『パスポート』では全曲日本語にトライした。今作(のアルバム本編にあたるディスク1)では再び全曲英語だ。

「前作と今作とは同時進行で曲を書いていたのでどっちを先に出すか迷いましたが、結果的には満足しています。その分、今作のダビングなどに時間を増やせましたし」

今作のミックスとマスタリングを手がけたハスキー・ハスコルズには、ジョー・ヘンリーの『Scar』でのその仕事ぶりを気に入ったエミ自身が依頼した。

「詞を書く時は基本的に英語です。そのうち、日本語も出てくるかもしれませんが、まだまだ英語で使いたい言葉がたくさんあるので」

とはいえ、本作にも1か所だけ、《The Return》という曲に日本語が用いられている。

「誰かと会う時は〈一期一会〉だからその瞬間を大事に、と母がいつも言うんです。この曲は出会いと人の変化について歌っていて、その日本語の一語がメッセージの核ですね。感覚的には違う言語じゃないほど私の中では繋がっているので、ここで使いました」

ディスク2はCM曲、コラボ曲等を集めたボーナス盤だが、こちらもまた、ポップにはじけるエミのヴォーカルを堪能できる好盤だ。

「私は昔から映画が大好きで、曲を書く時は短編映画のイメージで書きます。絵を描くことも好きなので(ビデオクリップ等で既出)、いつか絵本も作ってみたい」

エミ・マイヤーのスーツケースには、やはりたくさんの宝物が詰まっているのだった。

『Tour Suitcase of Stones』

4/2(土)東京 上野恩賜公園野外ステージ
5/21(土)横浜 赤レンガ地区野外特設会場
5/25(水)仙台 LIVE HOUSE enn
5/27(金)名古屋クラブクアトロ
5/28(土)焼津市文化センター・小ホール
5/29(日)大阪 シャングリラ
5/31(火)アルカスSASEBO イベントホール
6/1(水)福岡 Gate's 7 *弾き語りライヴ
6/4(土)静岡 吉田公園(静岡県榛原郡吉田町)
6/5(日)渋谷 クラブクアトロ
詳細はhttp://emimeyer.jp/まで

インストアイヴェント

4/3(日) 16:00
タワーレコード福岡店
4/8(金)19:00
タワーレコード梅田NU茶屋町店
4/9(sat) 15:00
タワーレコード名古屋パルコ店
4/16(sat)13:00
タワーレコード渋谷店 B1F「STAGE ONE」
インストアイヴェント詳細

カテゴリ : インタヴュー

掲載: 2011年03月09日 16:33

更新: 2011年03月09日 16:47

ソース: intoxicate vol.90 (2011年2月20日発行)

interview & text : 大須賀猛