玉那覇昭二
古典〜民謡、本島〜宮古・八重山を経て明らかになる踊り唄の真髄
〈沖縄の踊り〉というと、カチャーシーを連想する人が多いはず。僕も初めての沖縄旅行で、ふらりと入ったコザの民謡酒場での乱舞体験は、今だに鮮烈な記憶だ。三線が刻む軽快なリズムに合わせ、見よう見まねで手の平をゆらゆらさせて踊るあの楽しさは、沖縄好きになってしまった理由のひとつ。《唐船ドーイ》という華やかな民謡もその時に初めて知ったし、しんみりした民謡だけが沖縄音楽の魅力でないことも思い知らされた。
では、カチャーシーだけが沖縄の踊りなのか。その答えを知りたいなら『沖縄全島踊り唄決定盤』と題された一枚のディスクを聴くべきだ。冒頭の《六調》からいきなり驚かされる。奄美でも踊られるというこの八重山のリズムは、沖縄というよりも阿波踊りなどの本土の民謡に近い。先入観無しにこの曲を聴いたら、沖縄音楽とは思えないだろう。また、宮古の踊り唄であるクイチャーも、また印象が違う。人頭税廃止の喜びを歌う《漲水クイチャー》からは、カチャーシーとはまた違う華やかさとパワーを感じられることだろう。
「沖縄は島によって言葉も違うから、メロディやリズムも変わってくるんです。本島生まれの人が宮古や八重山の民謡を歌うと、どこか違和感があるんですよ」と語るのは、この作品に参加した野村流古典音楽保存会の師範、玉那覇昭二。唄と三線を担当する彼の専門は、民謡ではなく古典音楽だ。3曲収められた舞踊を代表する楽曲は、民謡の踊り唄とはかなり印象が違う。
「民謡は生活に根付いた自然発生的な民衆の音楽ですが、古典は琉球王国時代に中国から来た冊封使を歓待するために作られ、舞踊を取り入れて発展していったものなんです。必ず踊りがセットになっていて、いかに立ち方(踊り手)の感情を引き出していくかが、古典音楽の演奏のポイントなんですよ。だから、踊りによって演奏を高められることもありますね」
昨年、ユネスコの無形文化遺産リストに登録された組踊や、そこから庶民の間で発展してきた雑踊りなど、古典といってもヴァラエティ豊富。まずは、遊女をテーマにした《花風》を聴いてみて欲しい。民謡にはない厳かな気品や色気は、どこか雅楽や中国の古典音楽にも通じる独特の雰囲気がある。
「民謡はひとりで歌ってもエンターテイナーになれますが、古典は斉唱が基本。三線、箏、笛といった楽器編成も1600年代からほとんど変わっていないんです」
こうやって、古典音楽について学んでいくと、このアルバムにおける民謡との並びに違和感を感じるだろう。でも、そこがこの企画の肝であり、狙いでもある。民謡やカチャーシーだけでない沖縄の踊り唄、とくに古典音楽の奥深い世界に踏み込む入門編には最適な作品だ。次回、沖縄に行ったときは、民謡酒場だけでなく国立劇場に琉球舞踊を観に行ってみようと思う。